「よつ葉の地場野菜」がめざすもの
~よつ葉会員と生産農家による討論・交流会~
(3月18日(土)、千里朝日阪急ビルで開催)
津田道夫(北摂協同農場代表)
■ネット時代に「地場野菜」を問い直す
「よつ葉の地場野菜」という取り組みが、現状のようなカタチで始まって20年以上が経ちました。農産物のカタログ販売という形態としては、多分、日本でも唯一の取り組みだと勝手に思っています。セット野菜という販売方法や、消費する生活者の地域にできる限り近い生産地から農産物を仕入れるという取り組みは、各地の生協、宅配組織が進めています。けれど、よつ葉の地場野菜のように、ある特定の農村地域の多様な農家の生産する野菜を「地場野菜」というくくりで集荷・販売する試みが現在も続けられている例を聞いたことがないからです。
あらかじめ出荷が予測される農産物をカタログに掲載し、注文を受けて宅配するという仕組みは、その仕組みそのものが、今、厳しい逆風にさらされています。ネットで見て、注文すれば翌日、いや当日にも宅配便で届くことが「便利」だともてはやされる時代なのですから。さらに、自然にほぼ頼って生育する農産物を、注文量だけそろえるためには、過不足を調整する機能がどこかに求められます。市場という機能がその役割を担っているのですが、生産者、生産地を特定し、価格もあらかじめ提示してカタログで注文を受けるよつ葉のこだわりを貫くには、市場に頼ることはできません。よつ葉の地場野菜の取り組みは、そうした中で、多くの試行錯誤と年月を重ねて作り出されてきた、よつ葉の考え方が具体化された取り組みの1つです。
モデルとなったのは、日本の有機農業運動が生み出した“提携”という考え方です。生産側と消費側が「野菜」という素材のやりとりを介して、人間的関係をとり結んでいくことが、提携運動の基本とされています。でも、その構築には農家側にも消費側にもさまざまな困難を調整し、乗り越えていこうという強い意志が要求されます。したがって関係の拡大は容易ではありません。“提携”の基本理念を失うことなく、もう少しハードルを下げてより多くの農家、会員が参加してもらえる仕組みをつくりたいと考え「よつ葉の地場野菜」の取り組みを設けてきました。とりわけ、農家にとって、農村での生産活動は、地域全体とのかかわり抜きには成り立ちようのないものです。水路の管理、隣の圃場を耕作している農家との関係、村全体とのつながりは、自然と向き合う農業の基礎です。だから、できる限り、1つの地域内で多くの農家に参加してもらう仕組みをつくり、協同作付・協同出荷という形態で、よつ葉の会員との人的関係の構築をめざしたいと考えたというわけです。
■めざしたものは蓄積されているか
現在、よつ葉の地場野菜を生産している地域は、大阪府能勢町、高槻市原・樫田地区、京都府亀岡市東別院町、南丹市日吉町の4地域。出荷農家の総数はおよそ300戸で、1年に2回、1月と6月にそれぞれ春夏野菜と秋冬野菜に分けて作付会議を地区ごとに開き、各農家が予定している作付野菜品目とその作付量を予定登録するところから始まります。過去の出荷量、注文量のデータを基礎に、4地区の出荷量予測を、よつば農産がはじき出し、予測される過不足を品目ごとに調整するやりとりが、およそ1カ月以上続けられ、各地区、各農家ごとの予定作付量が確定。その後の実際の播種、管理、収穫、出荷は農家が主体的に決めていいことになっています。
農家の売価は、よつ葉の地場野菜としてカタログで企画されている期間についてはあらかじめ話し合いで決まった価格が原則維持されるため、農家として収入を予測することが可能となります。しかし、販売を担うよつば農産は、注文量と当日集荷する野菜の過不足をいかに調整するのかに日々、頭を悩まされるというのが日常化せざるを得ません。20年以上の集積されたデータがよつば農産には蓄積されています。そのデータを駆使し、4地区の農家と、地区ごとに設立されている集荷を管理する農業生産法人を通して、出荷状況の把握や、調整するコミュニケーションが問われます。
消費側に対しては、パンパンに膨れ上がった野菜セットが届いたかと思えば、値引きや欠品が発生してしまう原因をよつ葉の会員に伝える各地の配送センターとのコミュニケーションも欠かせません。こうした日々の作業を、無駄でよけいな仕事と捉えるのか、それとも、その積み重ねの中から「よつ葉の地場野菜」がめざすものが蓄積され、つくり上げられていくと考えられるのか。よつば農産にとっても大切なところだと思います。
■農家・職員・会員で論議深める
今年3月18日(土)。そんな「よつ葉の地場野菜」について、4つの地区の生産農家、よつ葉の職員、会員さんに集まってもらって、現状を皆さんがどのように捉えておられるのか、思いをぶつけ合ってもらう討論交流会を呼びかけました。60名ほどの集まりとなった当日、会場の中から出されたさまざまな声を振り返ってみて、私が印象に残った発言を紹介したいと思います。
1つは、地場野菜の生産農家に向けて、当日、島根県の弥栄村から問題提起者の一人としてお招きしたやさか共同農場の佐藤さんによる「よつ葉の地場野菜という、自分たちからみれば、随分ありがたい取り組みで農業に取り組むことができる地場農家の皆さんは、ぜひ、自分たちが地域の農業を背負って立つというほどの気概を持ってほしい」という指摘でした。この挑発気味の発言に対して、能勢町の新規就農者の一人の農家が「自分が農家として生き延びてこそ、地域の農業の未来も開けるという考えで励みます」と返してくれました。まぁ、延長引き分け再試合といったところです。
2つ目は、会場のよつ葉の会員の一人から、「どうして、よつ葉の野菜の価格はあんなに高いのですか」という質問が出された後の論議です。参加されていた他の会員さんから次々に「スーパーの野菜と比べたら割高かもしれないけれど、味や鮮度が違うので気にならない」という意見や「セット野菜を愛用しているので、こんなにいっぱい入っていて、よつ葉さん大丈夫?」と思うことがあるという意見など、会員側からむしろ異論が多く、逆に農家側からは「ちょっと高いかもしれないけれど、一生懸命育てて、いい品質の野菜を届けたいと思ってがんばるから」と言い訳気味のお願い発言が出されたことです。買うという行為が、お金を支払って商品を購入するという内実だけではなく、物を介して、人間同士が相手を認め合う行為でもあることを感じるやりとりだったと思います。
「よつ葉の地場野菜」が今後、どのように進化していくのか。その一端を受け持つ一人として、一層の努力を続けていきたいと思います。
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