よつばつうしん
2013年11月号(NO.032)
視点論点
免疫力をあげる子育てを

安保 徹 (免疫学・新潟大学名誉教授)


人間には、病気を予防したり、病気と闘ったりする免疫力が備わっています。免疫力を充分活用して健康に暮らす生き方を子どもと一緒に身につけましょう。
現代の子どもは外で遊ぶことが少なく、室内でのゲーム、塾通い、運動不足など、昔の子どもにくらべて免疫力を身につけにくい環境にあります。筋肉をつけて体温をあげる、甘い物や冷たい物を控えて免疫力をあげるなど、生活の中で免疫力をあげる秘訣を身につければ、身についた免疫力は子どもにとって生涯の宝になるでしょう。

●免疫力の正体は白血球 
免疫力の正体は血液の中にある白血球です。白血球には主に異物を食べて処理する顆粒球(かりゅうきゅう)やマクロファージと、異物を免疫で処理するリンパ球があります。体に入った異物の中でも大きな物を処理するのは顆粒球、小さい物はリンパ球が担当します。もっとも古くから体の中にいるマクロファージが担当を決める判断を行い顆粒球やリンパ球に指示を出しています。
白血球の中の顆粒球やリンパ球の割合は、自律神経によってコントロールされます。自律神経には、活動的な行動を行うときに働く交感神経と、睡眠中や食事中に働く副交感神経があります。顆粒球は交感神経の支配を受け、リンパ球は副交感神経の支配を受けています。
交感神経はアドレナリンを出して血管を収縮させて顆粒球をふやし、活動的にさせます。顆粒球は体内に侵入した異物を撃退しますが、その際に有害な活性酸素を出します。そのため交感神経優位の状態が続くと、さまざまな病気を誘発することになります。
一方、副交感神経が優位になると、体はリラックスし、血液中のリンパ球が増加します。リンパ球には免疫力があり、傷ついた細胞を回復する働きがありますが、ふえすぎると過剰に抗原抗体反応をおこし、アレルギー疾患になります。
自律神経が正しく働いている場合には、交感神経と副交感神経が交互に優位、劣位を繰り返します。このバランスが崩れ、自律神経にかたよりが生じたときに病気になるのです。どちらかにかたよりすぎない生き方をこころがけることが大切です。

●子どもの免疫力を育てよう 
子どもの頃は、大人よりもリンパ球が多く、1〜4歳までのリンパ球の数は大人の3倍です。その後、徐々に減りますが、それでも大人より高い割合です。子どもは生き抜くために必要な免疫力を高めて生命を守ろうと防御しているのです。
赤ちゃんは生後6カ月以上経つと母乳をとおして譲り受けた免疫力がうすれ、自分で免疫力をつくり始めます。この頃には、なめまわし行動でたくさんの細菌やウイルスを経験し、抵抗力をつけていきます。清潔すぎない環境で遊びを楽しみ、たくさんの病気を経験し免疫力をつけましょう。

●免疫力を低下させる低体温 
体温には免疫力はもちろん腸内細菌や酵素を活発に働かせたり、血液を循環させたり、エネルギーを生成するなど、体の機能には欠かせない重要な役割があります。ところが、最近の子どもたちは、平熱が36度に満たない子が全体の40%以上にもなっているそうです。
低体温には2つのタイプがあります。ひとつは忙しすぎて交感神経が緊張しすぎて血管が収縮し、血流障害を起こして低体温になる人。もうひとつは怒ることもあわてることもなく、楽に生きている人です。不活発すぎて代謝が抑制され、筋肉の発熱量が低下して低体温になります。いずれも無理のしすぎか、楽のしすぎ、つまり生き方のかたよりによって起こっています。
もともと大人より多い子どものリンパ球は、豊かな暮らしでますます過剰になり、常在する抗原に反応し、花粉症やアトピー性皮膚炎、ぜんそくなどのアレルギーを引き起こしています。こうした子どもの過敏な体質は薬で治る世界ではありません。生き方や食べ方が大事になります。

●免疫力を左右する食事

精神的なストレスや緊張をやわらげるには、親子で自然とのふれあい体験をしましょう。(写真は「やさか共同農場」産地交流より)

体の中で最大の免疫器官は腸管です。食べものに付着して入る侵入者の安全性を識別するため、リンパ球の6〜7割が集まり免疫システムの7割は腸の粘膜に集中しています。
腸管が行う消化、吸収、排泄作用は副交感神経の支配下にあり、食事は副交感神経を優位にします。
食物繊維の豊富な野菜、海藻、きのこ類は消化吸収に時間がかかるので性格を穏やかにする力を持っています。漬物、味噌、ヨーグルトなどの発酵食品は腸内細菌のバランスを整えます。酢やレモンなどの酸味の強い物、苦味の強い物をとると排泄しようとして副交感神経反射を促すので免疫力を高めます。
子どもの野菜嫌いに悩んでいるお母さんは多いのではないでしょうか。子どもはリンパ球が多く副交感神経優位のため感覚器が敏感になり、ほんの少しの野菜の臭いでも気になってしまうのです。考え方はいろいろありますが、食べる時期、食べない時期があってもいいのではないかと思います。

●ストレスは病気の引き金
食事のしつけに限らず、「……しなさい」という命令的な言葉の積み重ねは、子どもにとってストレスになります。それでなくても、今の子どもには学校だけでなく塾や習い事などストレスがたくさんあります。病気には、アレルゲン、食生活、環境汚染物質など、さまざまな原因がありますが、ストレスが発症の引き金になります。心と体は自律神経でつながっているからです。
親にとってもストレスの多い現代社会ですが、子どもが出している発熱・腹痛・頭痛・嘔吐・めまいなどストレスのサインを見逃さないようにしてください。そして、まずはリラックスをさせ、ゆっくり話をして精神的なストレスをなくしてあげましょう。

 (文責・編集部)


 
あぼ とおる 1947年青森県生まれ。医学博士。新潟大学名誉教授。米国アラバマ大学留学中の80年「ヒトNK細胞抗原CD57に関するモノクローナル抗体」を作製。89年「胸腺外分化T細胞」を発見。96年「白血球の自律神経支配のメカニズム」を解明するなど世界的に知られる免疫学者。『未来免疫学』『絵でわかる免疫』『医療が病いをつくる』『免疫力をあげる子育て法』など著書多数。