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2011年6月号(NO.003)
原発事故と農業を考える
支えよう 東北の米づくり
生産者紹介 安田水産、プラス 、ラクシュミー
生産者紹介 くまもと有機の会 、高槻地場農産組合 、
芦浜産直、しまなみ耕作会
東日本大震災・福島第一原発事故に思う―会員さんからのお便り
読書クラブ会員−わたしのオススメ
被災生産者からのおたより 丸友しまか、とりもと
支援金についての報告
被災生産者からのおたより 八木澤商店、岩手県産
視点論点 チェルノブイリ25年京都の集い(講演要旨)
ネパールつうしん、ニュージーランドから
祝島たより、編集後記、EVENT INFORMATION



原発事故と農業を考える
支えよう 東北の米づくり

 朝日新聞の月曜日の朝刊に掲載される「朝日歌壇」の愛読者の1人です。震災と原発事故が発生した3月11日以降、投稿される歌は被災地を詠んだものがほとんどになっています。

  生きてゆかねばならぬから 原発の爆発の日も 米を研ぎおり

 福島市の美原凍子さんの投稿歌です。米を研ぐという日常が、どれほど危い薄氷の上で営まれているのかを震災は教えてくれました。原発事故は、放射能汚染という空間的にも時間的にも区切りを付けることができない災害をもたらしています。それでも人は生きていくわけです。どう生きるのかを一人ひとりがこれまで以上に問い続けながら、震災から2カ月がすぎました。

よつ葉の年間予約米

 今年度のよつば農産の中心課題の1つが「よつ葉の年間予約米」の拡販です。民主党政権による米の戸別補償制度の導入によって、2010年産の稲作は大きく揺れ動きました。その上に、昨年夏の異常高温が重なって、10年産の新米が出荷される頃から、米の市場流通は低迷、スーパーで売られる米の価格は下がる一方となりました。
 よつば農産では、そうした状況を踏まえて、よつ葉の米を生産してもらっている農家に安定した稲作を続けてもらうために、私たちに何ができるのかを議論してきました。その中で、年間通じて、自分たちの食べる米を、農家にお願いしてつくってもらう、「年間予約米」の取り組みを、よつ葉の会員の皆さんに、これまで以上に利用してもらえるよう、11年産の「年間予約米」の拡販キャンペーンを準備しようと決めました。昨年12月から各配送センターの職員の皆さんとも相談して、2月に試食用の2キログラム企画を実施。さらに、全国各地の稲作農家の皆さんに集っていただいて、10カ所での会員さんとの交流会を行いました。そして、3月に入って、11年産の年間予約米の注文受け付けを開始しました。

原発事故を境に変化

 最初の1週目、積み重ねてきたキャンペーンが功を奏したのか、年間予約米6アイテム全てが前年同時期対比で120%以上の受注数を集めました。ところが、ちょうど予約米受け付けスタート週の金曜日に大震災と原発事故が起こってしまったのです。2週目からの予約注文に大きな変化が表れました。6アイテムのうち、山形県・おきたま興農舎の「コシヒカリ」と「つや姫」、青森県・新農研の「アキタコマチ」の予約に急ブレーキがかかったのです。逆に、地場の「コシヒカリ」「キヌヒカリ」、島根県・やさか共同農場の「コシヒカリ」が前年比150%を越える注文数を集めたのと顕著な違いでした。そして、4週間で〆切った11年産年間予約米の予約注文数は、山形県、青森県の米が前年より減じ、地場、島根県の注文数は5割近い増加という結果に終わりました。

「風評被害」とは考えない

 原発事故で膨大な量の放射性物質が拡散し続けている状況は今も続いています。東北で、これから田植えがスタートする11年産のお米、しかも年間を通して、食べ続けていただく年間予約米だけに、少しでも汚染のリスクを避けたいと考えられた会員の皆さんの判断は、十分に根拠のあるものです。その選択を「風評被害」と呼ぶことは間違いだと考えています。国が定めた基準以内だから「安全」という主張こそ、逆に間違いだと思うのです。
 しかし、一方で、山形県や青森県、ましてや宮城県や福島県で米づくりを続けてきた農家にとって、今回の原発事故は、まったく自分たちの手の及ばない出来事でした。そして、その結果、放射能汚染のリスクを背負わされての米づくりを強いられているのです。年間予約米の注文数減は、彼らにとって、まったくいわれなき結果です。11年産の新米が獲れる10月、東北の米づくり全体がどんな状況に直面するのかを考えずにはおられません。
 振り返ってみれば、人間も含めた動物が、生命を維持するために食べる行為には、常に危険が存在してきました。そのリスクを避ける手だての基本は、本能的に身につけた自らの判断能力です。そして、親から子、孫へと受け継がれていく経験や知識。そして、生産現場と消費の現場が分離してしまった現代社会では、食べものをつくる人と食べる人相互の人間としての信頼関係しかありません。私たち関西よつ葉連絡会が自前の農場や工場づくりにこだわり、全国の生産者と、顔の見える人間関係づくりにこだわってきたのも、そうした考えがあったからです。けれど、おつき合いを重ね、よつ葉の会員に食べてもらおうと工夫を重ねてきた東北の農家が、同じように今年も田植えを始めた田んぼにも、飛散した放射性物質がやがて降りかかる可能性は否定できません。彼らは、そこから逃げることができないし、決して逃げないでしょう。

日常からの変革を


青森県・新農研の田植え
「年間予約米」追加募集。次回は280・290号です

 私たちに何ができるのか。私は、おつき合いを重ねてきた東北各県の農家の皆さんが、つくり届けてくれる農作物を、彼らと共に食べていきたいと思います。まぁ、私は余命の少ない歳ですから。でも、そうした判断は、私たち一人ひとりが自らの判断として決めるべきことであるとも思っています。

 古きほど 汚れたるほど誇れるを 政治家は着る 新品のナッパ服

 最初に紹介した朝日歌壇に投稿された、宗像市の巻桔梗さんの歌です。この国の政治の質を変えないと、未来の子どもたちに申し訳ないと思いながら、自分たちの非力を痛感する毎日です。でも、年齢を重ねて、根源的変革は日常の積み重ねの上にしか生まれないことをようやく知りました。あきらめずに刻んでいきたいと思っています。(よつば農産・津田道夫)