よつばつうしん
2011年4月号(NO.001)

九州食育取材 第1弾
玄米和食の高取保育園を訪問して


西福江園長

 JR博多駅からバスに揺られること30分。福岡市早良区の閑静な住宅街の中に私立高取保育園はありました。1968年に開園されてからアトピーなど食物アレルギーの子を持ち悩む親たちをはじめ、地域とともに、その解決策や食育のあり方を探り続けてきました。

おなかぺこぺこが一番のごちそう

 高取保育園の実践は、「伝統の食べ物(身土不二)を取る」「季節のものを取る」「主食は玄米」「一物全体(丸ごと食べる)」「正しい食べ方(腹八分目で一口100回噛む)」「感謝の心でいただく」というもの。
 また子どもたちが心身ともに健やかに育っていくようにと、冬でも素足に半袖・半ズボン姿(土踏まずがしっかり形成されるのは4歳半までだそうです)。おやつも昆布といりこ、梅醤番茶が基本です。甘いお菓子やジュースなどは出てきません。園庭ではしっかり遊ばせ、おなかぺこぺこになるまで体を動かす。「おなかを空かせることが一番のごちそうです」と園長の西福江さん。
 「小さいうちから本物を食べさせ、しっかり刷り込ませることで親になった時に伝えていくことができるのです」「便利さの代償に私たちは大切なものを無くしています。命のつけは子どもたちに向かっているのです。それに早く気づくべきでは…」と警鐘も鳴らしています。

「食は命なり」を日頃から実践

 訪問した日は3月3日のひなまつり。4歳児・5歳児クラスが集まってのお誕生日会では、大皿で運ばれてきた給食を自分たちで盛り付けます。当日に出された給食は「散らし寿司、グルテンミートのフライ、ブロッコリーとちりめんのサラダ、マカロニソテー、煮豆、いちご」という和食のお食事。もちろんアレルギーを持つ子ども向けの除去食にもしっかり対応しています。母乳育児を推奨しているので、飲み物は三年番茶で牛乳は出てきません。
 食事の前にはみんなで元気よく発声です。「ご一緒に手をそーっと合わせましょ。100回かんで食べましょう。おいしいお食事ありがとうございます。いただきます。どうぞ召し上がれ」。人の話をよく聞き、落ちつきのある子どもたちを見ていると、和食中心の食事が味覚の形成や人格形成にまで深い影響を与えるということを認識し、「食は命なり」を日頃から実践されている保育の在りようがよく分かる光景でした。
 戦後60年の学校給食の歴史の中で、和食・雑穀文化が根付いていた日本人の食事風景がガラッと様変わりし、食の洋風化が進んできました。今では何が和食なのかが分からないお母さん方が増えていると聞きます。「食育とは学校給食から変えていくもの。国がなぜそこに手をつけないのか、どうして変わっていかないのか? 私たちが園で実践しているのは普遍的なことをしているだけです」。
 確かに玄米和食を実践しているこの保育園が多方面から取材を受けるものの、なかなか全国的に当たり前のように拡がっていかない現状をどう捉えるのかが問われているように感じています。いただいた命をどう紡いでいけばいいのか、素足で元気に走りまわる子どもたちを見ていたら一目瞭然ですよね。(淀川産直・奥野和夫)
※この取材と合わせて、長崎県佐世保市で生ごみ堆肥による野菜作りに取り組んでいる「大地といのちの会」を訪ねてきました。次号で報告します。(編集部・下村)。


食事の前には元気よく発声  
3月3日のメニューと行事に備える職員のみなさん

社会福祉法人 福栄会 高取保育園
園 長:西 福江  http://www2.odn.ne.jp/~aar49690/
所在地:福岡市早良区昭代2丁目10-12 TEL:092-831-4162・FAX:092-831-4168

玄米和食を中心とした給食で知られている。『ゼロから始める玄米生活』―高取保育園の食育レシピ集育実践レシピ集(西日本新聞ブックレット)、『ゼロから始める玄米生活〈2〉おかず編』(同)などがある。


読書クラブ会員―わたしのオススメ
『“弁当の日”がやってきた』
子ども・親・地域が育つ香川・滝宮小学校の「食育」実践記
竹下和男著 1680円(税込) 2003年9月 自然食通信社刊 四六判184ページ
評者:深木知子(奈良産直会員)

 この本には、家族の絆を結びなおす感動の「食育」実践記録や子どもたちの日記などが丁寧に綴られています。
 私は、著者である竹下和男さんの講演をお聞きする機会に恵まれました。風貌はいかにも学校の校長先生といった背筋のピンと伸びた立ち姿。とても伝えたいことがありすぎて時間が足りないからと、とても早口でした。講演の中で先生は「あなたは余命1年と宣告されたら、子どもたちに何を伝え、何を残しますか?」「愛しいわが子が生きていくうえで、一生の宝になるものはなんでしょうか?」と問われます。ざわめきがおこりました。先生は熱く語られます。それは「生きる力」を授けてやる事です。でも、残念なことに、手間暇をかけることを嫌がったり、信じて任せることをしたりしない大人たちの間にいる子どもたちには「生きる力」育ちませんよとおっしゃいました。
 滝宮小学校の子どもたちは「弁当の日」という機会を得て、手間暇をかけて調理する技術を教わり、「自分が食べるものを自分の手で作る」という体験を通じて成長していきます。校長先生はカメラを持って得意げな子どもたちを撮り続けます。
 私は、そのような家庭、学校と子どもたちの実践記録を拝読し、子どもたちと一緒に台所に立つ事や、家族団欒の時間を少しでも多く持ちたいと思いました。

読書クラブの活動紹介
 現在『読書クラブ』には、本や音楽が大好きというよつ葉の会員さん133名が参加されています。毎週お届けしている『ライフ』の『本好き情報のコーナー』に掲載する書籍・CDや別チラシの『本好き情報特別版』の紹介に協力してもらっています。(ひこばえ 森)