日本から酪農・畜産の灯を消すな
長谷川敏郎(農民運動全国連合会会長)
いま、日本の酪農・畜産は飼料や生産資材、電気代・燃油代などの生産コストが高騰する一方、販売価格に反映されず、歴史的な経営危機に直面しています。
とりわけ酪農経営はコロナ危機に続くウクライナ戦争、そして異常な円安政策が海外飼料に依存する経営を直撃し、国の「畜産クラスター事業」(注)により、大規模化と海外飼料依存がより進んだ上、国内が“過剰”であっても海外から乳製品を輸入し続ける、政府と食品大企業の姿勢により打撃を受けています。
農民連の一連の酪農畜産危機打開の行動がマスコミでクローズアップされるまで、消費者には深刻な事態が知らされていませんでした。「搾れば搾るほど赤字」、「もう先が見えない」と雪崩を打つように酪農家の離農・廃業が相次いでいます。
農水省の調べでは、今年1月の全国の酪農家戸数は1万1113戸で、前年同月より809戸(6・8%)が減少。特に近畿地方では10・4%と、10軒に1軒以上がこの1年間で廃業しました。高齢化などで毎年3%前後の離農でしたが、昨年ほど激減した年はありません。中央酪農会議が今年3月に行った経営実態調査では、84・7%の牧場が赤字経営で、6割近く(58%)が「離農を検討」と回答しています。酪農家の廃業は農協や獣医師、集乳車のドライバー、飼料会社、削蹄師、農業機械店、酪農ヘルパーなど関連産業も打撃を受けています。
●なぜ、乳価が引き上げられないのか
では、なぜ、乳価は引き上げられないのでしょうか。その背景には新自由主義政策で、増産と規模拡大を推進した国の責任があります。安倍政権が2017年6月「農業競争力強化プログラム」として生乳の生産・流通制度に関する「畜産経営安定法」を改定しました。生乳は毎日生産される一方、腐敗しやすいことから生産してすぐに乳業メーカーに引き取ってもらわなければなりません。価格交渉では酪農家が弱い立場になりがちです。そのため酪農組合などは共同の力で(1)酪農家の価格交渉力を守る、(2)効率的な輸送ルートで集送乳コストの低減、(3)需要などに応じて需給・生産調整してきました。ところが安倍政権はこの制度を骨抜きにし、“協同組合をつぶして農業を大企業の食いものにする”市場原理を持ち込もうとしました。
さらに2014年のバター不足以降、酪農家に増産を迫る一方で、TPP(環太平洋連携協定)や日欧EPA(経済連携協定)の締結で関税の引き下げ、競争力のある畜産業を育てるとして、「畜産クラスター」の補助事業を推進しました。増産の結果、19年には脱脂粉乳などの乳製品在庫が増え始めました。まさにそのとき、コロナ禍での学校給食の休止などで、史上最大の脱脂粉乳の在庫が積み上がったのです。乳業メーカーは酪農家が赤字経営でも、「過剰だから乳価引き上げはできない」という態度を取り続けてきました。過剰でも乳製品輸入はそのまま。牛乳・乳製品の国内消費量は生乳換算で1230万t、そのうち輸入が約470万t、38%も占めています。
そのなかにはカレント・アクセスという、WTO(世界貿易機関)協定のルールを「国際義務」と国が勝手に解釈し、輸入を続ける脱脂粉乳・バター(生乳換算13.7万t)が含まれています。酪農危機に対して、政府が昨年12月に打ち出した支援策は、「乳牛を殺せば1頭15万円給付」というものです。乳牛は生まれてから出産・搾乳できるまで、3年かかります。水道の蛇口をひねるようには生産量を増減できるものではありません。
●新自由主義農政に風穴を開けた運動
【デジタル署名】「日本から酪農・畜産の灯を消すな!
政府は直ちに対策を!」にご注意ください。
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