上関町祝島 原発建設に反対して40年
自然とともにある 島のなりわい
中国電力は1982年に山口県上関町は田ノ浦を原発の建設予定地として候補に挙げました。祝島と建設予定地の距離は4キロほどしかなく、離島のため事故が起これば、避難することは困難になります。周辺は漁場としても豊かな場所で、ひじきなどの海藻を含む水産業やびわの実、びわ茶などを生産しています。昨年秋に柏原前町長の体調不良のための辞職に伴う町長選挙が行われました。当選した西新町長は原発推進組織の会長を務めていた経歴もあり、危機感を持った反対派は対立候補を11年ぶりに出しました。よつ葉からは久しぶりの訪問になりましたが、祝島の現状を聞いてきました。(2・4面に関連記事)
未来を切り開く土台をつくる
祝島生産加工グループ/上関町議会議員 山戸 孝
岸田政権が十分な議論も経ないままに原発政策を一転させましたが、これが現在は実質的に休眠中の上関原発計画にどのような影響を及ぼすのか。それについて地元上関町では、反対派住民も推進派住民も比較的冷静に受け止めています。「地元が何を言っても計画は動かない。国が進めると言えば進むが、言わなけ
れば何も進まないままだ」。それが推進派住民の本音でしょう。
昨年当選した推進派の新町長も選挙時こそは原発推進を強く訴えましたが、当選後はトーンを落とし上関原発計画がすぐに進む見込みはないことを明言しています。町長を支える推進派町議会議員も今回の国の原発政策転換にそれほど大きな期待はしておらず、反対派住民も一定の危機感は持ちつつも同様に考えています。
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発事故以降、上関原発計画はストップし、地元では30年続いてきた推反の対立構造も変化の兆しが見えてきました。当時の町長は原発推進の姿勢は維持しつつも、原発財源は期待できないとして風力発電の誘致や観光振興に力を入れ、また反対派住民とも対話する姿勢を見せたこともあり、2015年、2019年の町長選挙では地元反対派団体は対立候補を擁立せず、2回連続で無投票による当選となりました。
推進・反対の垣根を越えて
議会においても推反の協調姿勢は出てきています。私が町議に初当選した2018年には、視察先に女川原発が示された際に、福島第一原発も同時に視察し、事故の被害と地元の窮状を知るべきだと提案しました。推進派町議もそれを了承し、推反両議員による現地視察が行われ原発について忌憚(きたん)のない
議論を交わす土台をつくることができました。また「まちづくり」についても推反の垣根を越えて協議、協働していく雰囲気が生まれており、対立が厳しかった頃では考えられないことです。
こういった変化の背景には、町が抱える深刻な人口減、少子高齢化という問題があります。上関町は建設こそされていませんが、既に多くの原発関連の交付金を受け取ってきました。にもかかわらず、中国地方で人口減少率が最も高い自治体となってしまっており、全国的に見ても悪い意味でトップクラスです。
もう原発財源に頼れないことは明白な状況である以上、祝島が反対運動と並行して取り組んできた原発に頼らない島づくりをさらに磨き実践し、上関町全体として自然を活かした「まちづくり」を推進派住民も巻き込みながら進めていくことが、町の未来を切り開く選択肢だと考えています。
炊きたてのひじきを港の側で天日干しする
炊きたてのひじきを港の側で天日干しする
サヨリの干物をパックする山戸さん
参加者より
原発反対運動の原動力
関西よつ葉連絡会事務局 矢板 進
纐纈あや監督の『祝の島』、鎌仲ひとみ監督の『ミツバチの羽音と地球の回転』という映画に取り上げられ、反原発運動といえば祝島という印象を持っている人も多いかもしれません。ぼくは初めての訪問になりますが、映画が公開された2010年頃は注目を浴びていた時期で、大阪まで来てもらってお話をしてもらったり、よつ葉から訪問したりしていました。
今が旬のひじきやサヨリの干物のパック作業を手伝いながら、原発にまつわる祝島の状況などのお話を聞きました。特に島内での意見対立の歴史は原発の補助金などによって分断されてきた地域の歴史でもあります。山戸さんが不要な対立がないまちづくりに日々、尽力していることもよく分かりました。
祝島港からは真正面に原発の立地場所が見えます。原発が建てば日常生活のなかで、たびたび原発が目に入ることになります。祝島は本当に水のきれいなところで、黒鯛(チヌ)が船着場の下で泳いでいました。
祝島はお金に頼らないまちのなりわいを歴史的に続けてきた島でもあり、びわや魚、ひじきを獲りながら海・自然とともに生きてきたこと、その誇りが反原発運動の原動力でもあるということです。そのような自然との関わり方は今後の私たちの生き方にとっても学ぶところが多くあります。今後も交流を深めて、学びとともに応援していきたいと思います。
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