能勢から広がる地域循環
今年も稲わら回収が始まりました!
よつ葉の畜産ビジョンには「地域の気候・風土・人々の生活とむすびついた畜産を常に求め、地域の農業と一体化した畜産をめざします」とあります。戦後の日本はアメリカの余剰穀物を家畜の飼料として輸入していました。輸入飼料への依存が背景となって、工業化された経済効率優先の大規模な畜産が主流になりました。現在、世界で問題になっているウクライナ侵攻に起因する穀物価格の高騰の原因も例外ではなく、消費者はもとより畜産現場をも苦しめています。能勢農場のような地域農業との取り組みが今後、ますます重要になってくるのだと思います。
農業とともにある畜産
能勢農場 寺本陽一郎
今年も稲ワラ回収の季節がやってきました。2006年「稲わらの粗飼料化事業」としてスタートした稲わら回収も今年で16年目。数十枚から始まった回収圃場も今では130枚前後となり、面積では30町歩を超えるまでに拡がっています。しかしここ数年は初秋に雨・台風が多く、なかなか思うように回収ができていません。
捨てる神あれば拾う神ありと言ったところでしょうか、秋がダメなら春の収穫にと近隣の稲作農家さんの協力のもと、春日牧場周辺の休耕田を活用して牧草生産や丹波協同農場の小麦収穫後の麦わらの回収などで不足を補い、1年間に必要な粗飼料(草・残茎)をなんとか自給することができています。
もちろんいただくばかりではありません。稲わらや麦わらなど自給飼料を回収した後、お礼に農場の堆肥を回収した圃場に散布しています。今、能勢農場には400頭近い飼養牛がいますが、その牛のふん尿を年間を通して堆肥化し、畑や田んぼに戻す。いわば能勢農場の牛舎と能勢・春日地域の田畑との循環を通して稲作、畑作の生産に寄与しています。
また能勢農場が飼育する交雑種(F1)はふん尿の水分量が多く堆肥づくりには手間と時間がかかります。特に稲わら回収後の堆肥散布は圃場枚数も多く短期間に大量の堆肥を仕込むため、仕上がりにバラつきが出てしまい、稲作農家さんから「堆肥が未熟!」とときどきお叱りを受けています。
でも、こうした課題も田畑でつくられる野菜やお米から出る残茎・残渣(くずわら、もみがら、米ぬか等々)を活用することで水分調整や醗酵が促進され、堆肥の均一化を図ることができます。
相互扶助や共存の道への模索
つまり農業と連携することであらゆるものが有効利用されている。まだ世の中が今ほど科学技術の発展していない時代から人々はこうした効能や技術を、その地域の知恵として引き継ぎ営んできた。なぜ1000年以上も家畜が人々の生活に寄り添い存在してこれたのか、畜産の現場にいるといろんな発見や気付きがあり、「畜産が農業とともに存在してきたのにはちゃんと意味があり、理にかなっているんだな」と改めて痛感しています。
今、全国に点在するこうした営みもコロナ感染拡大以降、急激に姿を消しています。政治や行政がその現実をまったく理解しないまま〝農畜連携〟や〝地域型循環〟などと連呼している様は言葉だけがひとり歩きしているように感じられてなりません。
でもこんな時代だからこそ、効率化、大規模化してひとり勝ちするのではなく、相互扶助や共存といった道を模索する。稲わら回収もそうした関係づくりの試みのひとつとして取り組んでいます。今年もいよいよ後半戦、稲作農家とともに汗をかきながら持続可能な生産を創造していきたいと思います。
稲わらを食べる能勢農場の牛(交雑種)
北摂地域の米の実り
お米もおいしく、一石二鳥
北摂協同農場 大上 弦(大上ファーム)
稲刈り後の稲わらが田んぼの中でなかなか腐植が進まず、毎年田植えのときには苦労していました。
「何かいい方法はないものか?」と考えていたときに、能勢農場が稲わらを回収していることを知りました。能勢農場では、地域循環型の米づくりに取り組んでいるため、稲わらを回収しているということでした。早速、相談をすると、回収してもらえるとのこと。また昨年に回収された稲わらを牛に与え、その牛の堆肥を、回収後に無償で散布してもらえるということで、それ以来、能勢農場の稲わら回収に協力しています。
年々、肥料が高騰し、この先の米づくりに不安を抱えていたところ、堆肥を散布してもらうことで肥料代の削減と土づくりにもなる。また、堆肥を散布してもらうようになってからは稲の株張りがよくなり、お米の食味もよくなりましたので、一石二鳥以上の効果があったと感じています。
能勢農場が取り組む地域循環型の米づくりに参加してから15年ほどになりますが、これからもこの取り組みに積極的に協力していきたいと思います。
大上さん(右)と息子さん
Copyright © 関西よつ葉連絡会 2005 All Rights Reserved.