消費者の商品選択に役立つ 無添加・不使用表示を守る
原 英二(日本消費者連盟)
(1)分かりにくい食品添加物表示
皆さんはスーパーで買い物をされるとき、食品をどうやって選びますか? 消費者庁が毎年のように実施している「食品表示に関する消費者意向調査」では、およそ6割の消費者が食品購入時に食品添加物の表示を参考にしていると回答しています。食品添加物への消費者の関心は高いのです。
しかしながら、現在の食品添加物表示は必ずしも分かりやすいものとは言えません。現在の食品添加物表示制度は、1988年の食品衛生法改正でできたものですが、物質名による全面表示という法改正の趣旨に反して、実際には多くの食品添加物をひとまとめに表示する一括名や類別名、表示が免除されるキャリーオーバー(注)や加工助剤などの抜け穴があり、表示で分かるとは限らないのです。
その上、表示の文字は小さく、多くの表示の中から読み取るのは大変です。消費者が名称から添加物の素性を判断することは容易なことではありません。
(2)裏切られた食品表示制度見直し
2015年施行の食品表示法によって、それまで厚労省や農水省に分かれていた食品表示は消費者庁に一元化されました。その後、消費者庁は順次検討会を開いて原料原産地表示、遺伝子組み換え表示、食品添加物表示、と相次いで表示基準見直しを議論しました。食品添加物表示については2019年度に議論されました。検討会では消費者団体から改善を求める意見が出されましたが、「実行可能性」の言葉の下に、業界代表の委員の意見ばかりが通り、現行制度維持を決定しました。「消費者庁」という名前なのですが、消費者の声は顧みられなかったのです。
(3)安全性に対する考え方の違い
消費者庁は、アレルゲンや消費期限などを安全性確保に関する情報として優先する一方、食品添加物や遺伝子組み換えなどは安全性確保に関わらない、優先順位の低い情報として扱っています。食品添加物は食品安全委員会での安全性評価を経て許可されているので、安全性が確保されている、という理屈です。
しかし食品安全委員会の安全性評価は、動物実験の結果に安全性係数を掛けただけのもの。ネズミと人間の種差を最大10倍と仮定した評価には、科学的に限界があるのです。不安な情報のある食品添加物は使用しない方がいいし、食品添加物の使用は必要最低限とすべきです。先に挙げた「消費者意向調査」でも食品を選ぶ理由として、多くの消費者が「安全安心のため」を挙げており、食品添加物の安全性に不安を持ち、避けたいと思っていることが分かります。
(4)標的にされた無添加・不使用表示
そうした消費者の声に応えて、食の安全・安心を指向する生協などの事業者は、食品添加物の削減を追求しています。食品添加物を削減した食品に表示される無添加・不使用表示は、消費者にとっては食品を選択する有用な表示です。細かい裏面表示より、大きな字で「○○不使用」などと書かれていた方が分かりやすいからです。
しかし食品添加物業界にとって、この表示は目障りな存在です。無添加・不使用表示は、消費者にそうした食品がよいものであると感じさせ、食品添加物が問題であるかのように感じさせる、というのです。
食品添加物表示見直し検討会の第1回会議で食品添加物協会出身の委員から「無添加・不使用表示を禁止すべき」という意見が出され、新たに検討会が設置されて規制の議論が始まりました。その結果、2022年3月に出されたのが「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」です。
(5)懸念される食品業界の自粛
このガイドラインには表示禁止事項として10個の類型が示され、無添加・不使用表示を規制しています。
このガイドラインは、一般的に使われている「化学調味料」や「合成保存料」などの用語を禁止していますが、法律にないということは禁止の理由になりません。類似機能を持つ原材料、健康や安全またはそれ以外の事項などは、禁止の範囲が大変曖昧です。「類型に該当すればただちに禁止というわけでなく、禁止されるか否かはケースバイケース」と消費者庁は言いますが、こうした曖昧な規定ではいつ規制されるかわからず、規制を恐れて事業者は萎縮してしまいます。
消費者団体・市民団体・生協・事業者などでつくる「食品表示問題ネットワーク」(以下「表示ネット」)は、食品添加物をまじめに削減している事業者の正当な表示は規制されるべきではないと主張し、消費者庁と意見交換を重ねて来ましたが、消費者庁は全く姿勢を変えませんでした。不適切な表示も市中にはありますが、事業者の自粛ですべての無添加・不使用表示がなくなることは、決して消費者の利益にはなりません。
表示ネットは5月30日に院内集会を開催し、今後も正当な無添加・不使用表示をしていこうと呼びかける集会アピールを採択しました。私たちはガイドラインの下で引き続き、業界の動きと消費者庁の規制を注視していきます。また原料原産地や遺伝子組み換えなどの食品表示の改善を求めて取り組みをしていきます。
(注)原材料中には含まれるが使用した食品には微量で効果が出ないため、食品表示法に基づく食品表示基準によって表示を免除される添加物を指す。

*表示禁止事項(表)