原発依存からの離脱
循環型経済の地域をつくる
東日本大震災と福島原発事故から11年目となる3月を、昨年に引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大のなかで迎えることとなりました。また気候変動による影響も以前にも増して見られるようになりました。災害はもはや、いつでも起こりうると考えなければならない状況になっています。消費社会の利便性を追求した生活ではなく、環境といかに共存していくかが問われています。農を営むことで土壌を豊かにし、地域循環の暮らしをつくっていくことは原発に頼らない社会をつくることと密接につながっています。
多様な人と自然の関わる農の価値
菅野正寿(遊雲の里ファーム)
「ほら、トンボのヤゴだ!」「タニシもいるぞ」「ドジョウもつかまえた!」里山の棚田に小学生の元気な声が響きました。福島第一原子力発電所から北西に約48㎞に位置する福島県二本松市旧東和町の布沢集落では5年前から自然保護協会の方を講師に田んぼの生きもの観察会を実施しています。沢沿いに広がる棚田の周辺にはわらび、ぜんまい、たけのこが自生し、秋には自然乾燥の稲のはせがけの風景が残っています。
その棚田の真ん中に田んぼビオトープをつくり、絶滅危惧種となったゲンゴロウやタニシ、ドジョウが生息し、アキアカネ、ギンヤンマ、糸トンボなど10種類以上のトンボも飛んでいます。7月にはホタル観察会(ヘイケホタル)も開いています。
11年前の原発事故のとき、幼少期だった子どもたちは、「外では遊ぶな」「マスクをしなさい」「土に触るな」という環境に置かれてしまいました。水遊び、どろ遊び、山歩きなど友達との大切な幼少期の体験を奪ってしまった原発の罪は重いのです。
ホタル観察会の夜に田んぼを歩く子どもたちとお母さんの姿に懐かしいふるさとの時間が戻ってきたうれしさが込み上げてきました。野良を駆け回る子どもたちのいるふるさとをつくり直していくことが原発の時代をつくってきた私たち大人の責任ではないのかと思うのです。
そして農家は米や野菜だけつくっているのではないということに気づかされます。多様な生き物と多様な人との関わり、里山の風景を丸ごと消費者や都市住民に伝えなければならないと感じています。
原発事故後に大学研究者や学生や市民団体、障がい者の皆さんにも田植えや野菜の収穫、稲刈り体験に来ていただきました。棚田の風景も里山の環境も農家・農村だけでは維持できない状況になっています。都市住民の皆さんの力も一緒になって食べ物も再生可能エネルギーもふるさとの風景も守っていくことの大切さを感じています。
さらに新型コロナウイルス感染拡大によって東京一極集中の脆弱さが露呈し、地域循環経済による都市と農村の共生の時代がやってきたのではないかと思うのです。
先人の気の遠くなるような永い年月の汗と労苦がにじんでいる豊かな土も美しい里山もたかだか50年の原発の時代になくすわけにはいかないと思うのです。
自然エネルギーであふれる町に
松下照幸(森と暮らすどんぐり倶楽部)
美浜原発の運転開始から50年超。原発が地域を潤すと語り続けられましたが、美浜町は今なお「地域振興」の段階です。美浜3号機事故後の再稼働議論が始まったころ、美浜町原子力安全監視委員会でJA美浜組合長が語った言葉は私の印象に強く残りました。「原発があることの不安」「なくなることの不安」が町民の共通の思いであるというものです。なんとうまく表現された言葉だろうと感心しました。
福島原発事故以降、悶々としていた私を生き返らせてくれたのはこの言葉でした。「それだったら『なくなることの不安』を解消すれば、町民が反原発に変わるのではないか」という思いです。
環境エネルギー研究所所長の飯田哲也さんにお願いして、〈森と暮らすどんぐり倶楽部〉と研究所による二つの提案書を作成し、2012年9月に美浜町長へ提案しました。当倶楽部の提案書の表紙は、「美浜町を自然エネルギーであふれる町に!」です。
一昨年の4月。私の周りに3名の優秀なメンバーが集まり、新庄地区へ政策を提案するチームができました。1年の議論を重ね、昨年4月に新庄区長に提案を行い、ほぼ認めていただきました。その後「新庄ビレッジ振興社」と名を改めました。
最初の提案は、新庄区を山菜栽培で活性化する内容です。〈(株)森と暮らすどんぐり倶楽部〉は、20数種の山菜栽培技術を培ってきました。それを生かし、持続性の担保をするために「女性の参加」を事業の第一条件としました。多くの人に「本当においしい山菜天ぷら」を提供したいと考え、地域の名店に協力を要請しています。当地で山菜を摘み取り、野外で「本当においしい山菜天ぷら」を皆さんで揚げ、「新庄ビレッジ振興社」メンバーと語り合うことを願っています。
その夢が叶ったら次はエネルギー自給企画です。バイオマス(熱)やソーラー(熱&電気)のエネルギー生産・供給を考えています。目が回るような忙しさです。
稲刈り・はぜがけ
生きもの観察
中学生対象の「森の案内」(左が松下さん)
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