北陸新幹線の京都・大阪延伸を止めなければならない理由
長野宇規(北陸新幹線京都延伸を考える市民の会・南丹市美山町在住)
●はじめに
私は北陸新幹線の敦賀―新大阪間の延伸計画の建設可能性地域に住むものです。2019年の末に北陸新幹線の計画を初めて知り、その経緯を調べてきました。調べるほどにこの延伸計画は京都の自然と文化を損ね、国民に損失を招くものだという確信を深めています。
図1に通称「小浜・京都ルート」の建設可能性範囲を示します。総延長は140㎞で設置駅は小浜東、京都、松井山手が予定されています。この区間のうち約8割がトンネルで、多くは大深度地下使用法のもと、地表下40m以深を通る計画です。トンネルならば完成すれば騒音もないので問題ないと思いがちですが、そうではありません。トンネルは地盤中の地下水を排水しないと工事ができません。このことで水脈が変わり水枯れが生じた例は過去にも多くあります(リニア新幹線工事が静岡でストップしているのはこの懸念のためです)。京都盆地の地下水は阪急電鉄、市営地下鉄の建設の度に下流の地下水面が下がりました。今回の新幹線は大深度地下を通るのでさらに大きな影響が懸念されます。
トンネルは山間部で直径10m、都市部では直径13mもあるため、掘削により大量の残土が出ます。京北と美山の建設予定地域は丹波高原国定公園の核心部である由良川・桂川、そして鴨川の源流域です(図2)。一帯は岩盤中のヒ素濃度が高いため、有害残土が出る懸念もあります。残土は建設予定地周辺の谷を埋め立てるように盛土される公算が高いのですが、盛土は想定を超える降雨で崩壊しやすく、忘れたころに災害が降りかかることになります。建設期間は15年間にもわたります。その間美山、京北の狭い道路、京都の街中を多数の大型ダンプが行き交うことになります。豊かな自然と静かな環境が失われると、これらの地域に訪れる人も移り住む人も少なくなるでしょう。地域の魅力も将来も奪うものになります。
●便益の過大評価と国民に回される損失のツケ
この計画により新大阪-金沢間の移動時間は確かに1時間ほど早くなるでしょう。しかしそれを国民がどれほど望んでいるのでしょうか。新大阪駅の標高はわずか海抜0.5mしかありません。この40m下にトンネルを掘るということは海面下です。大阪から小浜までのほとんどを新幹線は地下を走ることになりますが、地震や火災が起きても大丈夫なのでしょうか。私は今のサンダーバードで琵琶湖を眺めて旅する方が快適で安全だと思います。南海トラフ大地震が近々に起きると言われています。国土交通省は北陸新幹線が大阪まで延伸すれば大規模災害時にも東海道新幹線の代替ルートが確保されると述べています。しかし大災害後に途切れさせてはいけないのは物流であり、人しか運べない新幹線の必要性は高くありません。そもそも大阪も東京も被害なしでないとこの話は成立しません。リニア新幹線もできれば新幹線は3ルートになってしまいます。
計画ルートの総工事費は2兆1000億円、ルートのもたらす便益と費用の比は1.05と計算されています。この見積りは便益をかなり過大に評価しています。例えば計画で中京圏の旅客は東海道新幹線で名古屋から京都まで来て、そこで乗り換え北陸に向かう想定になっており、今より不便になります。建設費用にしても、過去の整備新幹線事業で工事費用が計画額に収まったことはありません。現在進行中の金沢-敦賀間の北陸新幹線建設費用は建設認可時の1.4倍に膨れ上がっています。つまりこの計画は採算がとれる見込みがありません。この工事は公共事業ですから損失のツケは国民に回されます。
●産業構造の転換と地方創生が求められている
このようなお粗末な計画がまかり通るのはなぜか? 原因は安部政権時代から始まった日銀の大規模な円の増刷と国債の乱発(アベノミクス)だと私は思います。景気対策と称して公共工事が乱発されるようになりました。東京オリンピック、札幌オリンピック、大阪万博、カジノ構想。たとえ赤字になろうとも建設関係者は儲け、政治家は利権が手に入ります。官僚も政治家に忖度するものばかりが昇任し、無理矢理な政治家の利益誘導にストップがかけられず、機能不全を起こしています。
15年後に目を向ければ、仕事のIT化は一層進み、ビジネスでの人の動きは減るでしょう。一方余暇は自動運転が実現し個人の行動範囲が広がることで鉄道の需要は一層下がるでしょう。日本に今一番求められていることは脱化石燃料時代に向けた産業構造の転換と地方創生です。だからこそ、時代にそぐわない新幹線の延伸計画は白紙撤回させないといけません。そのためにはまず、多くの国民に建設不要を表明してもらう必要があります。

北陸新幹線の建設可能性範囲

丹波高原国定公園中心を貫く建設可能性範囲