2021年2月にミャンマー国軍によるクーデターが起きてから1年がたちました。このクーデターは驚きとともに世界中で受け止められました。当初は市民による抵抗が直ちに広がり、クーデターによる国軍の統治は長期化しないだろうと思われていたものの、事態は悪化の一途をたどり、今なお解決の糸口を見いだすことが困難な状況になっています。
国軍は、アウンサン・スーチー氏率いる民主派政党・国民民主連盟(NLD)が8割以上の議席を獲得した2020年11月の総選挙に不正があったと訴えて強行に及びました。しかし国民や民主派勢力はクーデターと国軍による統治に強固に抵抗し続けています。クーデター後の4月には、NLDの議員が中心となって構成された連邦議会代表委員会(CRPH)が、国軍の政府に対抗するため、民主的な政府である国民統一政府(NUG)設立を宣言しました。
●国軍はなぜ市民を武力で圧するのか
クーデター後にミャンマーの市民は、職務を放棄することで抵抗する市民不服従運動(CDM)や平和的なデモ行進で国軍に対抗してきました。しかし国軍はクーデター後にさまざまな法律を制定し、市民への監視の目を強め、市民の逮捕が容易にできるようにしました。さらにデモ参加者に対して実弾を使って押さえつけるなど強権的にデモを圧殺し昨年2月以来、国軍や武装勢力により殺害された市民は1300人を超え、1万人以上が捕まったとされています。さらに政治経済の混乱にコロナ感染の拡大も重なった結果、国連によれば食料や医療などの支援を必要とする人が、2022年には人口の約4分の1にあたる1440万人に上るとの見通しになっています。
国軍が市民を殺害することに対して疑問を持たれる方も多いかと思いますが、上智大学の根本敬先生は以下のように説明しています。「ミャンマー(当時のビルマ)が独立してから、国軍が戦ってきた主要な相手は外敵ではなく、少数民族の武装勢力をはじめとした国民であるため、国民を殺害することに慣れてしまっています。さらに長きに渡る軍事政権下で作られた、軍属に利益が回るようになっている経済システムを維持するために、市民を力で従わせることをちゅうちょしない。そのため今回のクーデター以降も、国軍と治安部隊は平和デモを行う市民に実弾を浴びせ、捕まえた市民を拷問するなど多くの残虐な行為を現在進行形で行える」といいます。
●SNSを活用した国境を越える若者の活動
ミャンマーでは2011年に民政移管が行われ、それからの10年間は完全ではないものの民主社会の歩みを進め、経済も目覚ましい勢いで成長していました。そういった状況が今回のクーデターにより180度変わってしまいました。このような事態に立ち上がり、国軍への統治に対抗する市民の中で中心となっているのがZ世代と呼ばれる若者たちです。彼らは民主化の過程で育った世代です。民主主義とは何かを実体験として享受しているからこそ、民主主義への思いは強く、今回の市民による抵抗運動の中心となって活動しています。
彼らはSNSを利用しながら、国境も越えて連帯しながら活動を続けています。在日ミャンマー人たちも、さまざまな地域で活動しており、CDMへの参加によって収入が絶たれた市民や、戦闘地域から逃げて国内避難民となっている市民への支援や、NUG支援のために募金活動などを行なっています。レーレールィンさんという方は東京でスプリングレヴォリューションというミャンマーレストランを仲間と開店し、その利益を支援のために送金したりしています。さらに在日ミャンマー人団体は日本政府に対して国軍への経済的利益となる政府開発援助(ODA)の停止や、NUGをミャンマーの正式な政府として認めるように要請するなどの活動も続けています。しかし日本政府は曖昧な態度を取り続けており、在日ミャンマー人を大いに失望させています。
●世界が、そして日本が平和な場所であるために
今、日本の市民である私たちができることは、報道が少なくなったミャンマーの現状に関心を寄せ、そしてミャンマーの市民が望む民主的な社会が取り戻せるまで共に声をあげ続け、手を差し伸べることではないでしょうか。パルシックでは、2021年11月からミャンマー地域研究者や在日ミャンマー人の方を講演者にお迎えして、ミャンマーについて学ぶ講座を毎月開催しています。講演者の1人、レーレールィンさんは「これはミャンマーだけの問題ではない。もし平和的な民主社会が軍事力で潰されてしまったら、その影響は世界中に広まる。世界が、そして日本が平和な場所であるためにも、ミャンマーの現状を周りの人に伝え、日本の皆さんからも声をあげて欲しい」と話されました。日本からミャンマーの現状に関心を寄せ続け、ミャンマーの市民の声に耳を傾けながら、できることを少しずつでも行っていく必要があると考えています。
クーデターに反対するデモ活動を行う市民
戦闘地域から逃れ国内避難民となった市民
~知る・繋がる~ミャンマー連続講座概要~
第1回 2021年11月
クーデター後のミャンマーの市民社会/根本敬さん(上智大学)
第2回 2021年12月
在日ミャンマー人たちの活動/レーレールィンさん(SpringRevolution)
第3回 2022年1月
ミャンマーの少数民族/今村真央さん(山形大学)
第2回 2022年2月
ミャンマー仏教/川本佳苗さん(京都大学)
第2回 2022年3月
ミャンマーの現状と女性たち
*アーカイブ動画はhttp://www.parcic.org/news/events/19925/
パルシックでは、ミャンマーのCDM参加者や国内避難民の方への食料配布や生活必需品を買うための支援金を送る生活支援事業を、信頼のできる現地協力団体と開始しました。詳細はhttp://www.parcic.org/news/19798
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