「おじいちゃんの山」の記憶
京都義の
(能瀬義弘)
千葉産直サービス
小売りを始めた理由
千葉県千葉市:トロさば水煮缶、八甲鴨ロースステーキ用、ミニとろいわし缶など
旬や産地が見える、より自然に近い食材は何よりも健やかな心と身体をつくる。「産直健美」を商品ブランドに、食材の持ち味を最大限に生かした魚缶詰、惣菜はよつ葉でも人気が高い。直営店「フードストーリー・こころび」を2020年にオープンし、よりつくる人、たべる人に目を向けた展開を続けている。
素材と向き合いながら「本当においしいもので食卓に感動を届けたい」。その思いはこれからも変わることはありません。しかしながら、天然資源の枯渇によるコスト上昇など、よいものを高い質でつくり続けることがとても難しい時代を迎え、決してあぐらをかいていたわけではないですが、今までと同じやり方では限界も感じています。
まずは20年後を見て、シンプルに地域がよくなること、会社が続けられること、両方を考えたときに自分たちにできることは、食を通じた地域活性であったり、これまで培ってきた日本各地の思いを共にするつくり手の商品や、地元の志の高い農家さんの声がきちんと届く場所をつくることが大切だと考えました。
「長い年月かけて脈々と受け継がれてきた日本の食文化」、「細胞に染みわたる旬や土地の力のある滋味あふれる素材」を残すことが私たちの事業を続けることにつながり、働き手にとっても、自分たちが魅力のある会社になることで、ものづくりの技術や精神もつないでいけるのだと思います。
そのために、大手にはできない身の丈にあった方法で、つくる人とたべる人が少しでも理解し合える、地域の場となるお店が必要でした。時間はかかりますが、大きな観点で見たら自分たちが本当に残したいものを続けていくことにつながるのだと思っています。
つくること、伝えること、売ること、そして続けることはとても難しい時代を迎えていますが、まだまだ世の中捨てたもんじゃない。日々のたのしい食が、未来の食の記憶につながる。未来の子どもたちに誇れる地域社会をつくる一翼を担えていければうれしい限りです。
(冨田正和)
『薬(クスリ)を食う女たち』
文/五所純子 発行/河出書房新社 本体価格 1720円(税別)
評者:阪本貴史(ひこばえ)
マイノリティに関する問題、とりわけ依存や嗜癖(しへき)に関して書かれたもので、一定の型のなかに収まっているものに接することはよくある。当事者たちによって書かれたものであれ、周辺にいる人たちによって書かれたものであれ、反省し更生するような犯罪の文脈のなかでの問題構成や、治療し回復するといった医療の文脈のなかでの問題構成など。例えば芸能人をあげつらう週刊誌などで目にしたことがあるように思う。要するに私たちにとって分かりやすい言葉か、あるいは彼/彼女らにとって分かりやすい言葉で組み立てられた物語だ。逮捕、懲役、暴力、オーバードーズ(薬や麻薬の過剰摂取)、CCBTD(施設内対薬物認知行動療法)、craft(家庭訓練)、etc…。
そんな言葉で知っている気になっている私たちにとって、面食らってしまう内容だと思う。本書はもともと、薬物当事者へのインタビューを元にして書かれたフィクションだけれど、話のなかで皆、はっきりと更生もしていないし、回復をしているわけでもない。かといって「依存真っ最中です」というわけでもない。更生すべき過去を「おぼえてないですね」と言いながら、回復すべき現実を「シャブやりたい」と友人とささやきながら乗り切っていく。決して格式ばらない、軽やかな「更生」と「回復」の言葉が12章にわたって描かれている。
「そんな不真面目なもの読みたくありません」と怒ってしまいそうになる前に、一度この示唆的なタイトルに思いを巡らせてみたい。インタビューを重ねながら週刊誌で連載していた当初、想定されていたのは「ドラッグ・フェニミズム」だったそうだ。彼女らから最も離れている言葉、<ドラッグ>からわざわざ<薬>に<クスリ>とルビを振ってまで、もう一度彼女らの言葉へと近づけなおしていく。そうやってギリギリ理解できる範囲のなかで、肌理(きめ)を切り捨てずにマイノリティの問題を構成していく。このことは決してドラッグやフェニミズムにとどまる他者への構え方ではないと思う。
Copyright © 関西よつ葉連絡会 2005 All Rights Reserved.