宮城秋乃さん(チョウ類研究者)の不当捜査は予告する
物言う者を許さない時代が到来したことを
桜井国俊(沖縄大学名誉教授)
●宮城秋乃さんの不当捜査
2021年7月26日、コロナで開催が1年延期されていた世界遺産委員会が開かれ、沖縄・奄美の世界自然遺産登録が決まった。今、地元は祝賀ムードで沸き返っている。確かにこの地域の自然は素晴らしく、世界に認知されたのは喜ばしい。しかしそれで良いのかと声を上げ続けてきた女性がいる。チョウ類研究者の宮城秋乃さんだ。
筆者は、沖縄環境ネットワークという市民運動のメンバーで、年に4回発行する通信の最新号で「やんばる(沖縄島北部)の森の世界自然遺産登録はこれで良いのか?」という特集を企画し、宮城さんに寄稿をお願いしていた。締め切りは5月31日であったが、宮城さんは6月4日にしてほしいと頼んできた。沖縄・奄美の世界自然遺産登録を勧告した国際自然保護連合(IUCN)の勧告理由書が6月4日に公表されるので、それを見てから執筆したいとのことであった。
その6月4日、筆者の携帯が鳴った。登録していない番号からの電話だった。宮城さんの友人だと名乗った女性は、宮城さんに頼まれ至急の電話をしてきたのだという。何事か?と耳をすますと、宮城さん宅が4日午前に沖縄県警の10名の捜査員によって家宅捜索され、パソコンなどが押収されたため、原稿の提出ができなくなったとの伝言を頼まれたとのことであった。
「そこまでやるのか」という思いと「やはり」という思いが相半ばした。筆者も含め多くの沖縄の市民は、当時参院で審議され、治安立法として警戒していた「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(通称「土地規制法」)が成立した暁に沖縄でどのような事態が生ずるのかを示す出来事だと思ったからである。
チョウ類研究者の宮城さんは、返還された米軍北部訓練場跡地の森を踏査し、米軍廃棄物の2000発以上の空砲、手榴弾、野戦食、放射性物質コバルト60を含む電子部品などを次々と発見し、それを地元二紙が繰り返し報道してきた。なかには1993年に米軍から返還された場所から発見されたものもあり、30年近くも放置されていたことになる。米軍は汚しっぱなし、そして日本政府はそれを放りっぱなしという「不都合な真実」が彼女の手によって次々と明らかにされてきたのだ。米国政府と一体となって琉球弧の島々の軍事要塞化を推し進めようとしている日本政府にとって、物言う研究者の宮城さんは目障りな存在であったに違いない。

4月7日、米軍北部訓練場のメーンゲートに置かれた米軍廃棄物(宮城秋乃さんのブログより)
緊急の連絡をしてきた彼女の友人によると、宮城さんは北部訓練場跡地から回収した米軍の廃棄物を本年4月7日に東村高江にある米軍北部訓練場のメーンゲートに置き、米軍車両や軍雇用員らの通行を妨害したとして威力業務妨害の疑いで沖縄県警に家宅捜索されたのである。
宮城さんは6月11日、家宅捜索で中断していたブログを再び起ち上げた。その第一声は次のようなものだった。「沖縄・奄美の世界自然遺産候補地について登録を勧告したIUCNの評価書が2021年6月4日に公開されました。指摘事項などに、候補地となっているやんばるの森の米軍廃棄物残留や米軍機飛行に関する記述はありませんでした。オーバーツーリズムやロードキルや伐採等について触れられているのに、審査に一番インパクトを与えるであろう米軍廃棄物の残留に言及されていないのは不自然です。上記の理由から私は、今回の登録勧告は本来の純粋な評価ではなく、確実になんらかの忖度が働いたのだと考えています」
宮城さんのメッセージは、要するに「世界自然遺産と軍事基地は共存できない」ということである。やんばるには新たにつくられた高江のヘリパッドを含む北部訓練場と辺野古新基地がある。辺野古新基地にはオスプレイ100機の配備が予定されており、やんばるの森の上を低空訓練飛行するオスプレイが、やんばるの固有種で絶滅危惧種のノグチゲラの雛の巣立ちに大きな脅威となっていることは宮城さんがビデオ映像で県民に繰り返し訴えてきたことだ。このビデオ映像を見れば誰でも、「世界自然遺産と軍事基地は共存できない」という彼女の主張に同意するはずだ。
●物言う者を許さない時代の到来
2021年6月16日、自衛隊や米軍基地の周辺、国境離島などの土地利用を規制する「土地規制法」が参院本会議で成立した。どのような施設の周辺住民が規制の対象となり、どのような行為がその機能を阻害するとして規制されるのか、全てが曖昧な欠陥法である。禁止される行為が法で明示されていないのに懲役2年以下の罰則が設けられている。「罪刑法定主義」を定めた憲法第31条に明らかに違反する。
国会では、そもそも立法が必要となる事実(いわゆる「立法事実」、この場合は基地周辺で外国人が土地を購入し不都合なことが起きたという事実)がないことが明らかになった。法案の審議が不十分であることは誰の目にも明らかであった。コロナ対策のため会期延長を求める声が国会の内外で強かったにもかかわらずそれを聞き入れずに閉会とし、閉会直前に採決したのである。強行採決以外のなにものでもない。
沖縄は、国土面積の0.6%を占めるに過ぎないのに、在日米軍基地の70%がある。また2013年12月の「25防衛大綱」による自衛隊の「南西シフト」により、琉球弧の島々にいま、次々と自衛隊基地が拡充整備されている。土地規制法の影響を第一にかぶるのは間違いなく沖縄だ。このため沖縄では土地規制法の廃止を求める声が澎湃として湧き上がりつつある。しかしこれを沖縄の問題であり他人事としてとらえるならば、明日はわが身である。戦前の治安維持法に匹敵する恐ろしい法律が現代日本社会に忍び寄ってきたことを見逃してはならない。
沖縄基地反対グループから紹介していただき、宮城秋乃さんとよつ葉連絡会との交流が始まりました。2019年には研修で沖縄に職員が訪れ、沖縄の生き物や豊かな自然の紹介をしてもらい、翌年には大阪で催された<沖縄&よつば生産者交流会>でも米軍基地に関する環境問題について講演をしていただきました。その宮城さんが8/3に威力業務妨害と道交法違反、廃棄物処理法違反の容疑で書類送検されました。よつ葉とも関わりのある宮城さんの活動支援にご協力をお願いします。
琉球銀行 泡瀬支店 普通 286424 ミヤギアキノ
ゆうちょ銀行 17060-07483981 ミヤギアキノ
1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長、沖縄環境ネットワーク世話人。著書に『アジアの環境問題』(東洋経済新報社)『地球文明の条件』(岩波書店)など