深刻化するプラスチック汚染 脱使い捨てが急務
井田徹治(共同通信編集委員)
●海洋にあふれるマイクロプラスチック
大都市近くの海岸から、北極や南極周辺の海まで、プラスチックによる海洋汚染が深刻化しています。中には捨てられた漁網や漁具もありますが、多くは私たちの日常生活の中にある大量の「使い捨て」プラスチックが原因です。
コンビニなどでのレジ袋、飲料用ペットボトルやプラスチック製カップ、食品の包装容器など私たちの暮らしの中には使い捨てのプラスチックがあふれています。世界で毎年、海に流出するプラごみの量は最大1200万トンとも言われています。プラごみを飲み込んでクジラやウミガメ、海鳥が死んでしまう例が各地から報告されているように、これは野生生物にとっての大きな脅威ですし、漁業や観光業に与える影響も少なくありません。
環境中に出たプラごみは紫外線や波の力で徐々に小さな粒子になります。直径5ミリ以下のものを「マイクロプラスチック」と呼びます。
マイクロプラスチックは北極の海氷の中や水深1万メートルを超える深海の生物の体内からも検出されるまでになりました。大気中にも多く存在して、気流に乗って長距離を運ばれることも分かってきました。
マイクロプラスチックは海の生物が海水を体内に取り込むことで生物の体内に入ります。日本近海でもカタクチイワシなどの体内にかなりの数のマイクロプラスチックが含まれていることが確認されています。
●魚介類を好む日本人への悪影響も
プラスチックの中には、加工をしやすくするための可塑剤、太陽光で劣化しにくくするための紫外線吸収剤、製品を燃えにくくするための難燃剤などさまざまな化学物質が加えられています。中にはフッ素系の難燃剤のように生物への毒性が高いとして国際条約で使用が禁止されたものもあります。また、海水中にあるポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害物質がマイクロプラスチックの表面に吸着されることも知られています。
東京農工大などの研究グループは、プラスチックごみの多い環境に暮らす生物ほど内臓に蓄積した有害物質の濃度が高いことや、海水中の有害物質がプラスチック粒子を経由して生物体内に入り、内臓に移行、蓄積することなどを報告しています。
これらのマイクロプラスチックを含む魚やムール貝、カキなどの貝類、エビなどを食べることで人間は平均で年間5万個を超えるマイクロプラスチックを食べているとのデータもあります。水産物を食べることが多い日本人の量はさらに多い13万個だとされています。マイクロプラスチックは水産物だけでなく、塩や飲料水の中にも含まれ、人間が1週間に取り込む量は最大で5グラム、クレジットカード1枚分になるとの研究報告もあります。
海水中に大量に含まれるマイクロプラスチックが有害物質の新たな「運び屋」となり、人間の健康に悪影響を与えるのではないかとの懸念が高まっているのはこのためです。
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