ゲノム編集GABAトマトの何が問題か
河田昌東 (遺伝子組み換え食品を考える中部の会)
●はじめに
昨年12月11日、日本で最初のゲノム編集作物「高GABAトマト」が政府に届け出され商品化された。血圧降下作用があるというγアミノ酪酸(GABA)を通常の15倍多く含むという。ゲノム編集は遺伝子組み換えにとって代わる新たな品種改良技術で、今後大きな経済成長の手段になるとして世界的にも注目されている。
この技術に最もよく使われるCRISPR Cas9(クリスパー・キャスナイン)を開発したフランスとアメリカの女性研究者二人は昨年度のノーベル医学生理学賞を受賞した。現在、国内でも多収穫米やアレルゲンを含まない大豆やマッスル真鯛、臓器移植用のヒトの臓器を豚で作るなど、作物だけでなく動物も含め多くのゲノム編集生物の開発が進んでいる。
だがこれには技術的・倫理的に未解決の問題があり、このまま商品化が進めば環境生態系や生命の存在に将来取り返しのつかない禍根を残す恐れがある。GABAトマトを商品化したベンチャー企業はこのトマトの苗を無償で希望者に配布するとしており、全国で栽培されれば在来トマトとの交雑が起きても区別できない。
●問題1:オフターゲット
ゲノム編集は遺伝子組み換えと違い、目的の遺伝子だけを精度よく破壊すると言われるが、これは間違いである。特定の遺伝子を狙って破壊しても、標的外の遺伝子も壊す「オフターゲット」という副作用が起こる。現在の技術でオフターゲットを防ぐことはできない。その原因は幾つもある。
・原因その1:塩基配列のミスマッチ
Cas9は遺伝子を切断するDNA分解酵素(ハサミ)だが、その標的を決めるのはこの酵素に結合している約20個の塩基からなるgRNA(ガイドRNA)である。gRNAの塩基配列を変えればさまざまな遺伝子を切断できるという。
しかし現実はそう単純ではない。gRNAが遺伝子DNAと結合する際に2~3個の塩基が違っても結合する「ミスマッチ」という現象が起こる。動植物のゲノムは数十億個の塩基からできており20個程度の類似の塩基配列は通常数十か所存在する。
・原因その2:Cas9酵素の濃度によるオフターゲット
ゲノム編集の解説図ではCas9(ハサミ)は標的遺伝子近くに一個だけ描かれる。だが実際のゲノム編集作業では、細胞一個当たりにハサミは数百万個~数千万個投入される。ミサイルと違いCas9分子は標的遺伝子に誘導されるわけではなく、たまたま両者が近くにあれば反応する化学反応だからである。
その結果、当然標的と類似の塩基配列も破壊する。ゲノム編集効率を上げるためにCas9濃度を増やせばオフターゲットも増える。これはゲノム編集における永遠のジレンマである。
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