改定種苗法成立後にタネをどう守るか
山田正彦 (弁護士、元農林水産大臣、「日本の種子(たね)を守る会」顧問)
政府が公然と国民を欺く、あからさまに嘘の答弁をする、そのことが審議で明らかにされても政府はそれに対して何一つ答えられないままに審議終了で強行採決する。そうして種苗法改定案は2020年12月成立しました。
●世界に例を見ない自家採種の制限
一つの例として、政府はこれまで認められてきた自家採種を禁止するのはシャインマスカットなど優良な育種知見(知的財産権)の海外流出を防ぐために必要だと力説しました。しかし改定前の種苗法でも自家採種は自由でしたが、種苗としての譲渡は禁止されていて、21条4項は明文で輸出は禁止されていたのです。国会の審議でも「農家から優良な育種知見が海外に流出したのは山形県のサクランボだけだ」と農水省も答弁。それも原村政樹監督のドキュメンタリー映画「タネは誰のもの」で、オーストラリアの経営者を刑事告訴で未然に防いで、「改定前の種苗法で海外流出は止めることができる」と。
私は国会議員を5期務めさせていただきましたが、森友、加計、桜を見る会などの疑惑の追及での審議ではなく、国民の権利義務に関する重要な法律を審議する過程においてのこのようなことは初めてのことでした。残念です。
このようにして世界に例を見ない登録品種の自家採種一律禁止となる種苗法改定案が日本の国会で成立したのです。米国でも植物品種保護法があって、登録品種であっても自家採種自由で、EUでも年間の収穫が穀類92トン、ジャガイモ185トン以下の小農家は、原則自家増殖は自由で、大規模農家も主食の穀物、ジャガイモなどのイモ類、繊維作物など21の作物は例外とされています。さすがに農水省も国会審議ではこのような一律禁止の規制がなされている国はイスラエルと日本だけだと答弁しました。
●自家採種は農民の権利
人類は1万年もの間、その土地、気候に適したタネを分け合って自家採種を続けて命をつないできたのです。
国連の人権宣言でも、日本が批准した食料・農業植物遺伝資源条約でも自家採種は農民の権利とされています。自家採種禁止法案はかつてモンサント法案と呼ばれて中南米、インドなどで一時猛威を振るいましたが、農民の暴動などもあって次々に廃止されてきたものです。まさか21世紀の日本でこのような法律が成立するとは考えてもいなかったのです。
政府は、登録品種は10%にも満たないので農家には影響ないと答弁しましたが、現在農水省のアンケート調査で52%の農家が登録品種の自家採種を続けていることが明らかにされています。登録品種だけで9000種類もありますから、農家は現在自分たちの作付けしているコメ、麦、大豆、野菜類のどれが登録品種であるか分からないのが現状です。これからは対価を支払って許諾を得る手続きをするか、全て種苗を購入するかしなければならなくなります。知らなかったからといっても10年以下の懲役、1000万以下の罰金、農業生産法人では3億円以下の罰金、しかも共謀罪の対象です。
●地方自治体に働きかけよう
このように日本の種苗がモンサントなどの多国籍企業に支配されようとしている時に、未来の子どもたちのことを考えたら黙って手をこまねいているわけにはいきません。種子法が廃止されて2年の間に、22の道県が種子法に代わる種子条例を成立させ、ついに国会でも「種子法廃止撤回法案」に自民党も審議に応じて継続審議になっているように。
私たちには闘う手立てがあります。地方自治法、地方分権一括法では法律上国と地方自治体は同格です。国の地方自治体に対しての指揮命令監督も一切禁止されました。私たちは法令に反しない限りどのような条例(その地方だけで適用される刑罰も定めることのできる法律)も制定することができます。
私たちにこれから何ができるでしょうか。まずこの事実を一人でも多くの方に知っていただき、あなた方の住んでいる市町村議員のところに友達と一緒に出掛けて、種苗法に対しての条例を作っていただくように相談することです。その方に紹介議員になっていただき議会事務局に手続きをすれば、市町村議会では種苗条例を県に対して制定するような意見書を出すかどうかの審議をしなければなりません。こうして各市町村から意見書が県に上がれば、県議会も必ず動き出します。
●タネを守る条例の制定で対抗を
そして以下のような内容を含む条例を検討してもらったらいかがでしょうか。
①農家が生産しているコメ、麦、大豆、サトウキビ、リンゴ、イチゴなど作物のほとんどが各都道府県の登録品種です。農業競争力強化支援法8条4項では各都道府県の優良な育種知見(知的財産権)を民間(企業)に提供しなければならなくなっています。県民の税金で開発した財産権です。法がそうなったからといって簡単に譲るわけにはいきません。譲渡を否定することはできませんが、さまざまな厳しい条件、例えば審議会を設けて、農家への影響、地元経済への影響などを調べて意見をまとめて県議会が報告、県議会では3分の2以上の承諾がなければならない、もしくは住民投票に附さなければならないなどの条件をつけて事実上譲渡をできなくする条例は合法的に制定できるのです。このような例はいくつもあります。
②今回の改定種苗法では育成権利者の権利は強化されてなんの制限もないので、各都道府県の登録品種については改定前の種苗法のように、種苗を購入した農家は種苗としての譲渡はできないが、次作以降も自由に自家増殖(採種)できると。
③既にゲノム編集の種子が届け出も表示もなされないままに用意されているので、愛媛県の今治市の条例のように「市の承諾なくして遺伝子組み換え作物を市内の農地で栽培した場合には半年以下の懲役50万以下の罰金に処す」とした条例を設けて安全なタネを守ることです。遺伝子組み換え作物については北海道や神奈川県も条例で厳しく規制しています。
④最後に、日本には多様な伝統的な在来種を守る法律がありません。韓国のようにローカルフード条例を設けて、広島県のジーンバンクのような制度を整えれば、今回の種苗法改定で35条を新設して「育成者権活用のために特性表のみで侵害立証を行いやすくする」(農水省)としたことについても、私たちは既にこのような品種を作付けしていたと対抗できます。
タネは命です。未来の子どもたちのために命をつないで行くため、いま私たちにできる小さなことから動き出しましょう。動けば必ず結果は出ます。
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