(奈良産直・松本恭明)
コロナ禍に想う環境対策と持続可能な社会へ
(京都南産直・向井芳博)
『科学者の社会的責任を問う』
荻野 晃也【著】
緑風出版 2020年8月 269ページ 2750円(税込)
評者:村上美和子(京滋センター)
原発の危険性を半世紀にわたり訴え続けた荻野晃也さんが今年6月に80歳で亡くなられた。直接お目にかかることはなかったが、この本を読んでとても感銘を受けた。
伊方原発裁判のこと、物理学者として原子力の危険性に気づき一貫して反対の立場を貫きとおされたこと、師事した湯川秀樹博士が核兵器の反対を訴える一方で、原発は核の平和利用だと主張されて危険性に口を閉ざしておられたことに疑問を感じていたこと、ご自分が科学者としての社会的責任に悩んでいたことなど、荻野さんの半生を振り返っての遺書として、がん告知を受けて亡くなる直前まで命を削るように執筆された。ご冥福を祈るとともにこの著書を遺してくださったことに深く感謝している。
伊方原発裁判では住民側の特別補佐人として参加、活断層の地震リスクを証言した経緯。電力会社が「企業秘密」だと核燃料棒データを公開しなかったこと、微量放射能の危険性や炉心溶融リスクを指摘しても国側証人の科学者たちが否定したことなど、原発訴訟の経過と科学者たちの姿勢を振り返っている。私は最高裁が住民側の上告を棄却して、いとも簡単に結審したのも驚きだった。
伊方原発訴訟で明らかになった安全審査のずさんさがなぜ福島原発訴訟でいかされないのか。低線量被ばくを強いられている子どもたち・親たちのことを思うと胸のつぶれる思いだ。
政府の思惑で各個人の意思が委縮させられる状況に問題がある。菅首相官邸が学術会議の会員任命拒否を行うなどもってのほかだ。メディアも牛耳られていて驚くほどのていたらく。福島第一原発のトリチウム汚染水を海へ流すなんて愚かすぎる。
この本で初めて知ったのが、学生運動の盛んな1960年代に反核の横の連携を目指した「全国原子力科学技術者連合」が結成され、原子力関係の院生・学生を中心として「核兵器保有・濃縮技術」や「原発の安全性」をテーマに真剣に議論・研究されていたことである。荻野さんが京大支部で伊方原発のことを重要視されて、その後、伊方原発住民訴訟に関わられた経緯と、原発推進の拠点ともいえる京大工学部でどうして反原発運動を続けられたのだろうという疑問が少しわかったように思う。
いま全国各地で反原発の市民運動が展開されているが、私が住む琵琶湖のそばでも、若い世代の行動を温かくサポートしたり、自然エネルギーと食と福祉を自分たちでまかなっていく小さな循環型社会を目指して地道な活動が行われている。この本を読んで、毎日の暮らしの中で埋もれそうになる脱原発の想いを新たにさせていただいた。
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