「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
これは川端康成の『雪国』の冒頭です。この文に主語はありません。主語がないおかげで私たちもいっしょになって汽車に乗ってトンネルを抜け、雪国へ入って行くことができます。そして「夜の底が白くなった」のを実感できます。
ところが、英語では主語が必ずいりますから、次の「信号所に汽車が止まった」で出てくる汽車を主語にもってこなければなりません。例えば、The train came out the long tunnel into the snow country.となります(この訳文は金谷武洋著『日本語と西欧語 主語の由来を探る』より)。この英文だと私たちは空の上から、ただ汽車がトンネルから出てきて雪国へ入っていくのをながめていることになります。「夜の底が白くなった」の部分がどう英訳されているのか紹介されていないのでわかりませんが、空の上からながめていたのでは「夜の底が白くなった」のはわかりようがありません。
金谷武洋さんは1951年生まれの私と同い年で、言語学を専門にしているようです。2012年までモントリオール大学東アジア研究所日本語科長を務め、数多くのカナダ人学生に日本語を教えて日本に送り出してきました。今もモントリオール在住です。いわば日本語教育のプロです。これまでにも『日本語に主語はいらない』とか『日本語文法の謎を解く』などの著書があります。そう、日本語に主語はいらないのです。
例えば英語では目の前に相手がいるのに I love you. と表現します。これしかないんです。ところがこれを直訳して「ぼくは君を好きだよ」なんて、とても恥ずかしくて言えません。加山雄三が照れ隠しに鼻の頭をかくのもわかります。せいぜい「好きや」ぐらいですかね。
ただしこれが政治の世界になると厄介です。安倍首相が突然全国一斉に学校を閉鎖しました。今から思うとタダでできるショック政策だったのでしょう。英語では主語がいりますから、首相は誰に何を命令したのかはっきりさせなければなりませんから、あんなことはできなかったと思います。
ジョン・レノンのクリスマスソングの中の、War is over, if you want it.は主語があることの利点です。戦争を終わらせるのは大統領ではない、あなたたちひとりひとりの意志ですと呼びかけています。
コロナ禍のゴールデンウィーク
最近では緊急事態宣言も解かれ街中にも人が戻ってきました。もともと人混みが苦手な僕としては以前のように閑散とした街並みも良かったなぁなんて思ってしまいます。
僕は趣味でランニングをしていて、この春も中止になりましたが、マラソンやトレイルランニングの大会にエントリーしていました。トレイルランニングは馴染みのない方もいらっしゃると思いますが、簡単に言うと山の中を走るマラソンです。食料や水分を補給するところもほとんど無く、自分でそれらを背負って走ります。まさに大自然の中で行う修行のようです。
進めども進めどもゴールは遠く、こけても、筋肉がけいれんして足がつってもひたすら進みます。80㎞や100㎞なんて走っていると、もう止めようと何度も挫けそうになります。しかし距離が長ければ長いほどゴールした時の感動は格別で、自分と戦い続け、全力を出し切った時には涙もあふれます。
コロナとの戦いも長く、第二波も予想されていますが、遠くともゴールは必ずあります。焦らずにゆっくりと進み続け、日々の暮らしの中に楽しみを見つけて乗り越えていきましょう。
(パラダイス&ランチ・高木俊太郎)
Copyright © 関西よつ葉連絡会 2005 All Rights Reserved.