100年、200年先を見据えた事故の後始末計画を!
今中 哲二
(京都大学複合原子力科学研究所)
●現場検証がはじまったばかりのデブリ撤去作業
「40年で廃炉」の出処は、東電・政府が発表している「福島第1原発の廃炉に向けた中長期ロードマップ」ですが、その中身は「うまくすれば30年~40年で燃料デブリをとりだせる」ということでしかありません。デブリとは事故のときにメルトダウンしてしまった核燃料が固まったもので、原子炉容器や格納容器の底に堆積しています。猛烈な放射能があるため人は近づけず、ようやく小さなロボットを格納容器の中に入れてデブリの様子を調べる調査がはじまったところです。いわば、事故から9年たっても『現場検証』が行われている段階です。
メルトダウンした3つの原子炉にはそれぞれ200トン程度のデブリがあります。デブリを取り出すためには、どこにどんな状態で堆積しているかを知っておく必要がありますが、分かっているのはほんの一部です。ロードマップによると、昨年中にデブリの取り出し方法を決めることになっていましたが、当然のことながら決められませんでした。「40年でデブリ取り出し」というのも、東電さん得意の「希望的な絵」と言っていいでしょう。
●福島第1原発は敷地全体が廃棄物保管場
廃炉という言葉を聞くと、壊れた原子炉の跡が更地になるかのような印象を持ちますが、そんなことは起きません。何とかデブリを取り出して保管容器に収納できたとしても、デブリを引き取ってくれるところはないので、第1原発の敷地で長期保管するしかありません。またデブリを取り出した後の汚染だらけの建屋についても解体撤去は難しいので、地震・津波に耐えられる形で長期保存するしかないでしょう。
デブリを取り出さずに建物を丸ごとコンクリートで閉じ込める、というやり方もあるかも知れませんが、私としては、地下水に触れたり津波をかぶったりする恐れのあるデブリは取り出して安定した場所で保管してほしいと思っています。その他に燃料プールから取り出した使用済み燃料、崩れた建物のがれきや機材、汚染水処理に用いた膨大な量の廃棄物なども第1原発の敷地に長期保管されることになるでしょう。
●トリチウム汚染水は長期保管すべき
最近ちょくちょく報道されるのは、増え続けるトリチウム汚染水を希釈して海に捨ててしまおうという計画です。福島第1原発の敷地はもともと地下水が多く、壊れた原子炉の建屋に流れ込むため大量の汚染水が発生し続けています。放射能の除去処理をしても、トリチウムという放射能は水素と同じなので汚染水から取り除くことができず、1リットル当たり約100万ベクレルといった高濃度のトリチウム汚染水が、1000基以上のタンクに合計100万トン余り溜まっています。もうじきタンクを増設する場所がなくなるので、東電、経産省、原子力規制委員会が一体となって、増え続けるトリチウム汚染水を希釈して海に捨てる計画を進めようとしています。
一昨年、「処理水の取り扱いに関する小委員会」という経産省の専門家委員会が、トリチウム水の処理方法をめぐって福島と東京で公聴会を開きましたが、公募で集まった意見陳述者44人のうち42人が海洋放出に反対でした。ところが、この1月末に発表された小委員会のまとめ案では、大型タンクを設置したり固めたりして長期保管するといった代替案は放棄されています。その理由は、「40年で廃炉」というロードマップの目標があるので長期保管ができないそうで唖然としました。
トリチウムの半減期は12年なので、120年保管すれば1000分の1に、240年たてば100万分の1に減衰します。これ以上余計な放射能は放出しないという方針の下にトリチウム汚染水は長期保管すべきです。場所が足りないのでしたら、廃炉がきまった福島第2原発の敷地も利用すべきです。
●100年、200年先を見据えた後始末計画を
福島第1原発の敷地に隣接して環境省が巨大な中間貯蔵施設を作っています。飯舘村などの除染から出たフレコンバッグを運び込むそうですが、「中間」である所以は、30年後に「福島県外の最終処分場」へ運び出すからだそうです。しかし、最終処分場が県外に見つかると本気で思っている人はいないでしょう。
福島原発事故の後始末が、私たちが生きているうちに終わることはありません。30年、40年で何とかなるという場当たり的な対策ではなく、私たち、今の世代にできることは、100年、200年先を見据えた後始末計画を立てて、福島原発事故という負の遺産を次世代に引き継いでいくことだと思っています。
いまだ後始末のめどが立たない福島第1原発
(浪江町・請戸漁港で撮影)
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