関東汚染地域で市民による
甲状腺検査を続けています
木本さゆり (関東子ども健康調査支援基金)
●市民による甲状腺検査
2013年9月に発足した「関東子ども健康調査支援基金」(事務局:茨城県守谷市 常総生活協同組合)は、福島原発事故以降、関東の汚染地域で子どもたちの「甲状腺エコー検査」を行う市民団体です。
寄付金と会費で購入した、エコー機その他の検診機材一式を持ち回って、関東1都5県(栃木・茨城・千葉・埼玉・神奈川・東京)の、17の連携団体の地元で検診をしています。円滑な経過観察を継続できるように、各地で毎年1回、同時期の実施です。検診に協力する医師・スタッフ・基金共同代表はボランティアです。検診の場では医師から受診者や保護者に直接説明をしていただき、信頼と安心につながっています。
ほぼ毎月検診を重ね、発足から5年半を迎えた今年4月には、当基金の受診者は延べ10,000人を超えました。現在のところ事故時18才以下の方に「甲状腺がん」の方はいませんが、年々病院紹介をするケースが増えているのは心配です(グラフ参照)。
●検査を始めた背景
福島原発事故で放出された放射性物質は、福島県だけでなく広く東日本を汚染しました。2012年1月に施行された「放射性物質汚染対処特措法※1」によって、環境省が“汚染状況重点調査地域”に指定した102市町村のうち41ヶ所は福島県内、51ヶ所は関東圏で、国費による大規模除染が行われました。にもかかわらず、2012年6月に成立した「原発事故 子ども・被災者支援法※2」の基本方針においては、政府は対象地域を福島県内のみに定め、関東は対象外とされてしまいました。「汚染された土地」は除染するけれど、そこに住み、「被ばくした子ども」には対策を講じないということです。
がっくりしていた折、常総生協の当時副理事長だった大石さんから「市民の手で健康調査をする団体を一緒に作りませんか」との声掛けがあり、有志5名で基金設立に当たりました。供給エリアのほぼ全域が汚染地域となった常総生協は、事故初期から組合員の母乳調査をはじめ、尿検査、空間線量調査を行っていたほか、地域住民と協同して土壌汚染調査に取り組んで積極的に情報発信していました。私は土壌汚染調査を通して常総生協を知り、生協が地域で発揮する力の大きさに驚きました。
●「被ばく影響なし」に向かう国と国際機関
福島県では事故時18才以下だった38万人を対象に、2011年6月から「県民健康調査」が行われていて現在4巡目です。直近の発表によると「甲状腺がん、またはその疑いとされた人は217名」とのことですが、この人数は経過観察となった子たちが追跡されておらず、実際より少ないものです。県は評価に必要なデータを提供していないのに、7/4、「甲状腺検査評価部会まとめ」として、『甲状腺検査本格検査(検査 2 巡目)で発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない』と発表してしまいました。
また、国際放射線防護委員会(ICRP)は、今年6月、原発事故後の放射線被曝防護基準を、現在の「年間1ミリシーベルト」から、「10ミリシーベルト」に見直す方針を示し、9/20までパブリックコメント(意見募集)を行っています。事故が起きてもなるべくなおざりにできる体制を整えて、着々と原子力を推進しようとする動きを容認してはいけないと感じています。
●検診の必要性
「行き場のない不安を解消してくださりありがとうございます」「前回と状態が変わらず安心しました」「今後ともぜひお世話になりたく活動が続いていきますよう、願います」…基金の甲状腺検査を終えた保護者や受診者がアンケートに書いてくれた言葉です。事故から8年が経ちますが、不安は消えないままです。検査を続けていると、「がんは何人ですか?」との問い合せがしばしばありますが、私たちは「“数”ではなく、“人”」をみているということを受診者の言葉から実感する日々です。チェルノブイリの経験を踏まえれば、結論を出すには早いし、なにより汚染があったという客観的事実がある以上、検診を継続する必要があると思っています。
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