
ごはんのすすめ
幕内秀夫 (フーズ&ヘルス研究所)
ここ数年、全国の小中学校で血液検査を実施する自治体が増えています。その背景には肥満、糖代謝異常、脂質異常、脂肪肝などの増加という問題があります。成人ならまだしも、なぜ、成長期の子どもたちにまでこのような問題が起きているのでしょうか。その答えは、欧米の肥満大国、アメリカやカナダ、オーストラリアなどが明らかにしているように思います。運動不足と食生活に問題があることに疑問を呈する人はいないでしょう。
●高脂肪・高糖質の食生活が問題
食生活に関して言えば、少し前までは「高カロリー高脂肪」に問題があるというのが一般的な解釈でした。たとえばよく槍玉に上がる、ハンバーガーにフライドポテトと清涼飲料水というファストフードのメニューがあります。たしかに「高脂肪」であることは間違いありませんが、その一方で、ハンバーガーのバンズ(パン)に含まれる砂糖や清涼飲料水などの問題から、「高糖質」こそ問題だという指摘もあり、議論されることがありますが、もはや意味のないことだと思います。現代の食生活の問題は高脂肪であり、同時に高糖質になっていることにあります。ただし、「糖質」と言っても、穀類やイモ類に含まれる糖質ではなく、精製された砂糖や主にトウモロコシから作られる異性化糖などの問題です。もはや世界的な共通認識になっていると言ってもいいでしょう。
ただし、それがわかったとしても、欧米先進国においてその対策はうまくいっているとは言えません。アメリカなどの小児の肥満は増える一方です。私たち日本人の感覚からすれば高脂肪は、肉類や食肉加工品、揚げ物類など「副食」の問題だと考えがちです。高糖質の問題は菓子類や飲料水など「間食」を思い浮かべる人がほとんどだと思います。ところが、欧米の肥満大国の場合、それが「主食」の問題であることに難しさがあります。具体的に言えば、ハンバーガー、ホットドッグ、ドーナッツ、ピザ、菓子パンなどです。それらを食べる際、子どもの場合は清涼飲料水を飲むことが多くなるでしょう。主食なのですから、365日、1日3回、口にする人もいます。日本でも、それに近い食生活をしている子どもたちが増えていることがさまざまな健康問題につながっています。

「塩むすび」は日本人の知恵の結晶
●主食の見直しが最優先
このような現状を解決するには、何よりも「主食」を見直すことが最優先になります。具体的に言えば、きちんと「ごはん」を食べることです。ごはん食の最大の利点は、「水」以外によけいなものが何も含まれていないことです。当然ですが、油脂類や砂糖など含まれていないので、高脂肪、高糖質になることを防ぐことができます。その他、ごはんは「粒食」のため、パンや麺類などの「粉食」に比べて、消化吸収が緩やかです。そのため、肥満や高血糖につながりにくいということもあります。当然ですが、「食品添加物」が含まれている「米」などありませんから、食品の安全性の面でも不安を少なくすることができます。季節の野菜や魚介類などどんな副食に合うのも良い点です。ごはんを食べながら清涼飲料水を飲む人はめったにいないでしょう。成長期の子どもにはなおさらごはんをしっかり食べさせることが大切になります。
小学校も高学年になってくると、学校から帰っておやつの欲しがり方から、給食の主食が何だったかわかることがあります。ごはんだった日は、むやみにお菓子やジュースを欲しがりません。きちんと空腹が満たされているからです。パンだった日は、「お腹すいた」と言いながら帰宅することが多くなります。充分にお腹が満たされていないためです。お菓子やジュース類を欲しがるのも当然です。ごはんをきちんと食べることの大切さは非常に大きいのです。
●環境保全にもつながる米食
これらは個人の健康問題ですが、それ以外にもごはんを中心にした食生活をすることの意味はたくさんあります。米は主に水田で作られているわけですが、水田は森林に涵養されている水で賄われる場合がほとんどです。そのため日本人は森林を非常に大切に考えてきました。水田による稲作が行われてこなかったら、ここまで緑豊かな国土にはならなかったでしょう。そのことは、新鮮な空気や清浄な水の問題にもつながってきます。また、水田にはたくさんの水が貯められているわけですが、全国の水量を合わせたらどれほどになるでしょか? 膨大な量になっていることでしょう。洪水を防ぐことにもつながっています。自然のダムだと言われるのもそのためです。私たちがきちんとごはんを食べるということは、個人の健康問題だけではなく、環境問題にもつながっているのです。
そして、私たちがもっとも恵まれていることは「ごはん」を食べることに経済的な問題が生じないことです。誰でもごはんで空腹を満たすことができる。ここまで来るには、途方もない年月がかかっています。先人たちの血(知)と汗があったからのことです。先人と生産者には感謝しなければなりません。

島根県邑南町の神谷(かんだに)棚田
まくうち・ひでお 1953年茨城県生まれ。健康・料理評論家。管理栄養士。日本列島を歩いての縦断や横断、また四国横断、能登半島一周などを重ねた末に「FOODは風土」を提唱。伝統食と民間食養法の研究をする「フーズ&ヘルス研究所」を主宰。『粗食のすすめ』『粗食のすすめ レシピ集』など著書多数。