ちょっと前の朝日新聞のコラムに面白い話が載っていました。かつてパリ支局に勤務していた時に北京支局に駐在していた友人が訪ねてきたことがあって、久しぶりの再会で何を食べようかとなって、何とパリ支局の界隈に何軒もあるラーメン屋に行ったというのです。フランスと中国という東西の料理天国で暮らすふたりが、わざわざラーメンを食べるというのが何とも面白いじゃないですか。ちなみに海外の各都市にはラーメン屋が結構あって、日本政府もそれらの店を「日本料理の店」として数えているそうです。
日本料理というと京料理のようなものを考えてしまいますが、うどんだって立派な日本料理で、とすれば、だしつゆでメンを食べるという意味でラーメンも日本料理と言って何ら不思議ではありません。メンとだしつゆが少し違うだけです。そして、京料理も含めてうどんにもラーメンにも共通して大事なものがだしであり、うま味です。カレーも日本で独自の発達をしましたが、これもまた私たちはうま味を求めているのだと思います。
うま味の主成分は必須アミノ酸のひとつグルタミン酸ですが、魚や肉などのタンパク質由来のものばかりでなく、野菜にも含まれています。だからどこのラーメン屋もスープを作るのにトン骨や鶏ガラばかりでなく、玉ねぎをはじめさまざまな野菜を入れます。また具だくさんのみそ汁やトン汁なども、それぞれの材料から出るアミノ酸のハーモニーと言えるでしょう。野菜の中でもトマトともやしはグルタミン酸をたくさん含んでいることが知られています。確かにイタリア料理ではトマトは調味料のようにしてうま味として使われているように思います。それに比べてもやしはあまりうま味として活躍していないようで、もっともっと上手な使い方があるかもしれません。
しょう油とみそはそれぞれ大豆由来のアミノ酸をたっぷり含んでいます。また、いいお茶の葉にもたっぷりアミノ酸があります。
五味を国語辞典で調べると甘味、苦味、酸味、塩味、辛味と出てきます。うま味は含まれていません。でも、福岡伸一さんによれば、分子生物学の発達で、味覚を感じる味蕾にはちゃんとうま味の受容体があるそうです。逆に辛味のそれはなく、辛味は熱さを感じる細胞が反応するのだそうです。英語ではもともとhotと言いますから、この点に関しては彼らの方が敏感なのかもしれません。また、UMAMIは世界中で通用するそうです。
かつて妻らプンマガルが故郷カファルダンダ村からポカラの町へ出る時、2日3日歩いた山の道。義母らが雑穀を背負い、チベットの岩塩と交換に出た塩の道を家族で辿ってみました。ところが昔てくてく歩いていたその道、今は車道が開通し大半がジープ・バスでの移動に。主要な街道にはロッジが乱立しホテルまで建ち、WiFiインターネットが完備され、商業的に変容したトレッキングコースを歩いていることを実感。それでも道中、ちょっと聞いてくださいよと書きたくなるエピソードに何度も出会いました。
中でも印象的だったのが、バスで隣席したタカリー人のお爺さん。プンマガルのカファルダンダ村なら、皆知っていると言います。僕らが泊めてもらう家の、ベサリおばさんまで当然知っておると。距離も文化的にも大きく異なる(チベット的)ガーサ村で降りたお爺さん、カファルダンダにミートがいるとのことです。ミートとは、異なる民族と特産物を交換し、協力しあう擬似の親族関係を結ぶことです。またその日、タトパニ村で民家に道を尋ねたら、そこの家人もプンマガルでそのまま宿泊させてもらうことに。聞けばベサリおばさんも妻のことも知っているとのこと。
実はこんなふうに、プンマガルが多く居住する地域であっちの山こっちの山、谷を挟んだ向こうの集落で「ベサリおばさんをご存じですか」と聞けば、大抵ご近所のように知っていると答えが返って来るものです。ベサリおばさんは寒季、家畜を連れ標高の低い崖下で暮らし暑季は家畜を連れ崖上で過ごし、季節に応じて移動していたのが、2015年の大地震で崖下の家は崩れました。今は崖上の家でヤギ12匹を飼う小さな農家なのです。
ヒマラヤの奥深い山中で世界中にネットでつながること以上に、隣席のお爺さんや通りがかりの民家とベサリおばさんでつながる、ローカルネットワークの広さに驚く次第です。それは長年の実生活のやりくりから、紡ぎ出し張り巡らされた人間関係の網(ネット)であることに気付かされます。
家畜の飼葉を担ぐベサリおばさん
本紙の表記基準について少々。多くの新聞と同じように、常用漢字と音訓表をもとに、独自に修正したルールをつくっていて、私はそれを「よつ葉表記」基準と勝手に思っているのですけれど、いかんせん成文化したことがないので、それらしきものがあることを知る人は周囲にしかいません。
例をあげると、「~すること」など形式名詞の場合は「事」ではなく「こと」、「~していただく」など補助動詞の場合は「頂く」ではなく「いただく」、「出来」や「美味」に漢字を使うのは名詞形の場合だけ、年号は基本的に西暦…といったところは多くの用字用語集と同じ。よつ葉的なところでは、「食べ物」ではただのブツみたいだから「食べもの」、生産・流通・消費の対等な関係をめざすのだから「会員さま」とは言わず、「弊社」ではへりくだりすぎるので「当社」、家父長制的な「主人」ではなく「夫」、などなど。
基準や規則って好きじゃないんですけどね。でも、機関紙であるからには、標準的な分かりやすい口語体を原則に、いろんな表記が混在しないように、と自分なりの「ものさし」をつくっています。執筆者のみなさん、「あれっ、表記が変えられてる?」と思われたときは、ご了承のほどを。
(編集部・下村俊彦)
「『放射能のホント』の撤回を求める署名」
へのご協力ありがとうございました
2018年11月10日 関西よつ葉連絡会
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