2018年、農や食にまつわる気になる動き
山口 協(地域・アソシエーション研究所代表)
2018年も残り少なくなってきました。今年を振り返り、農や食にまつわる気になる動きについて考えたいと思います。
●猛威を振るった自然災害
今年もいろいろありましたが、何よりも自然災害に振り回された1年だったと思います。6月には大阪府北部地震に見舞われたかと思えば、6月末から7月初旬にかけては広い範囲で豪雨が集中しました。岡山や広島ほどではなかったものの、この北摂地方も大きな被害を受けました。
ところが、それ以降ぱったりと降雨は止んでしまい、今度は記録的な猛暑が襲いかかりました。6~8月の平均気温が1度以上も上昇し、各地で熱中症が頻発する異常事態。息も絶え絶えとなったところで、9月の初め(21号)と終わり(24号)に相次いで台風が直撃します。とくに21号は25年ぶりに「非常に強い」勢力で日本に上陸し、関西空港の水没をはじめ、近畿全域に大きな被害をもたらしました。
こうした自然災害は、もちろん食や農にも大きな影響を及ぼします。実際、よつ葉の地場野菜の生産地でも、6月末から7月初旬の集中豪雨では河川の氾濫で田畑が冠水したり、流入した土砂で流されたりして収穫期を迎える夏野菜の多くが犠牲になりました。気を取り直して播種し直しても、猛暑と水不足で思うように生長してくれません。悪戦苦闘して育てた作物も、相次ぐ台風でオジャン。さらに、秋冬野菜も長雨で畑の準備が遅れたり、日照不足で生長不良に悩まされたりと、まさに踏んだり蹴ったりです。
とはいえ、今年の状況が極端だったことは確かですが、今年だけが異常気象だったわけではないようです。ある農家さんによれば「少なくともこの5年、“何もなかった”という年はなかった」とのこと。異常が常態化する、シャレにならない状況になっているようです。
もちろん、こうした事態は近畿地方に限られたものでも、日本に限られたものでもありません。近年、世界全体で異常気象が頻発し、高温や熱波、大雨や洪水、地滑り、干ばつ、超巨大台風など、さまざまな災害が起きています。
●異常気象と地球温暖化
こうした異常気象の背景として、指摘されているのが地球温暖化です。温暖化の原因については諸説ありますが、現在では、人間の産業活動に伴って排出された温室効果ガスが主因となって引き起こされているとの説が主流になっています。化石燃料をエネルギー源として、大量生産された工業製品を欲望のままに消費し、使い捨てる。そんな“便利で豊かな”生活のツケが、いまになって私たちに突きつけられているということでしょう。
なかでも、これまでさんざん温室効果ガスを排出してきた、いわゆる先進国の責任は重大です。社会や経済のあり方を率先して転換しなければ、自分たちの未来世代の首を絞めるのはもちろん、歴史的に先進国が犠牲にしてきた途上国の人々にさらなる被害を押し付けることになります。地球温暖化に伴う海水面の上昇や砂漠化などの影響を真っ先に受けるのは、第一次産業を基幹産業としながら気候変動に十分な予算を配分できない国々だからです。
ところが、そんな先進国の代表であるアメリカ合衆国は昨年6月、2015年に国連で採択された気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言しました。アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領は、「中国、ロシア、インドは何も貢献しないのに米国は何十億ドルも払う不公平な協定だ」と主張しましたが、その背後には、温暖化対策が利益追求の足かせとなることを嫌うグローバル企業の働きかけがあるとのもっぱらの噂です。
幸いにもアメリカに続くような国は現れず、「パリ協定」の枠組みそのものは維持されそうです。とはいえ、それで安心できるわけではありません。
この10月8日、地球温暖化に関する国際的な専門研究機関IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「1.5℃特別報告書」を発表しました。「パリ協定」では地球温暖化対策の長期目標として、今世紀末までに平均気温の上昇を「産業革命前から2℃未満に、できれば1.5℃に抑えるべき」と合意されています。しかし、すでに1℃上昇しており、このままでは温暖化対策が予定どおり実行できても2℃目標は達成できない――。そんな危機的な状況を受けて出されたものです。
私たちが異常気象として体感しているように、地球温暖化はますます深刻化の度合いを増しています。この現状にどう向き合うのか、私たちも問われています。
「パリ協定」では各国に対して自主的な削減目標の提出、それに向けた国内対策を義務づけています。日本も、温室効果ガスの排出が世界第5位(1人あたりでは第4位)の主要排出国として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減するとの目標を掲げています。
しかし、国内対策については内外から批判が寄せられています。というのも、要点となるエネルギー政策をめぐって、これまでどおりの化石燃料・原発重視を改めていないからです。今年7月に経済産業省が発表した2030年の電源構成では、「パリ協定」以前と同じく、再生可能エネルギーの比率を22~24%、原発は20~22%、化石燃料は56%としており、やる気が疑われて当然でしょう。
●農・食から世の中が見える
必要なのは、再生可能エネルギーの比率を高めていくこと、さらに第一次産業の復権を図っていくことではないでしょうか。とくに後者は、異常気象による自然災害の被害を抑える点でも重要だと思います。
今年の自然災害は全国で生じ、農産物被害も広範囲に及びました。それでも食料の危機に至らなかったのは、昔に比べれば品目あたりの産地集中が進んでいるとはいえ、日本列島の地理的条件もあって、まだまだ産地が分散していたからです。それぞれの地域で多様な作物がつくられるような状況なら、ある地域が被害を受けても他の地域でカバーすることができます。もちろん、身近なところで食べものを確保できれば、自然災害があってもなくても、生活の安心・安全は充実します。
頻発する山崩れや鉄砲水は、林業が衰退し、山林が荒れるに任されていることから生じています。農業が活性化して里山が再生されたり、バイオマス発電で山林が利用されるようになれば、大規模災害も少なからず抑制することができるでしょう。
農や食から世の中を見ることによって、自然災害が単なる天災ではなく、多かれ少なかれ人災であること、と同時に、それを乗り越える方向性も見えてくるように思います。
Copyright © 関西よつ葉連絡会 2005 All Rights Reserved.