1面「よつば関西保養キャンプ」もお読みください
保養の権利を子どもたちに
飯田亜由美(いわき放射能市民測定室たらちね)
福島原発事故災害から7年が経ちました。
年月が経つにつれて、関心や懸念もその差が広がりを増し、社会ではこの問題が風化しているようにも感じます。しかし、あの日から大量放出されている放射性物質は今も私たちの環境の至るところに存在し、常に汚染と向き合う日々が続いています。また、原発の廃炉や汚染水問題など私たちの世代では終結できない問題が山積みで、次の世代を担う今の子どもたちに確実に重い荷物を受け渡すことになる現実が今ここにあります。
●子どもたちのあしたを守る事業を展開
2011年3月の福島原発事故災害を受けて、同年11月13日に開所をした いわき放射能市民測定室たらちねの活動は今年で8年目に入ります。
食材・土壌放射能測定とホールボディカウンターから始まったたらちねの事業は現在、ストロンチウム90やトリチウムを測る『ベータ線放射能測定事業』、『甲状腺検診プロジェクト』、「沖縄・球美の里」子ども保養プロジェクトの受け入れや保養相談などを行う『たらちね・こども保養相談所』、昨年5月に開設した『たらちねクリニック』など、地域住民の皆さんの不安な声に応え、子どもたちのあしたを守るために事業を展開してきました。
●今も続く原発事故による分断
放射性物質による汚染はその影響がいつ、誰に、どのように出てくるのか、被ばくを受けた人や状況によっても異なり、それに加えて『目に見えない・におわない・感じない』という独特の性質が人々の心をさらに混乱させました。放射能に対する意識や考え方はたとえ同じ家族間であっても、夫婦であっても違いがあり、事故当時は避難するのか、しないのか、いろいろな判断を巡り、さまざまな分断が起きました。そしてそれは7年経った今でも続いています。
汚染問題の懸念は衣食住のすべてにつながるものであり、避難の有無だけでなく、食べる・食べない、行く・行かないなど子どもたちの生活において気を張り巡らさなければならない今の状況は子育て中の母親にとって、精神的負担がとても大きいのです。学校や幼稚園、家族間で意識の差が生じることで、母親がさらに追い詰められてしまうケースも少なくはありません。
汚れを気にせず、思いっきり遊び、畑で作った新鮮な食べものを食す。そんな自分たちが幼少時代にしてきたような経験を今の子どもたちにはさせてあげられない。さまざまな葛藤がこれまでも、そしてこれからも続いていくのです。時が経てば経つほど、風化が進み、関心が薄れることに反比例し、人々の心の問題はますます深刻化しているように感じられます。
■体内の放射性物質 排出促す保養
たらちねで受け入れを行っている『沖縄・球美の里』に私も自分の子どもたちを連れて同行したことがありました。事故当時、1歳1か月の長男とお腹の中にいた長女は一度も福島の海に入ったことはなく、裸足で遊ぶのも除染された保育園の園庭内のみでした。
そんな長男が沖縄の海を目の前にして言ったのが、『ママ。ここの海は入ってもいいの? 裸足でいいの?』
この一言ではっとさせられました。
子どもには放射能のことなど知る由もなければ、理解することなどできません。
それだけ、母親である私がダメと言ってきた。触っちゃダメ、行っちゃダメ。と言ってきたのです。
『いいんだよ』と言った瞬間、わーっと涙があふれてきました。
これまでいっぱい我慢させてきてしまった子どもたちに申し訳ない気持ちと、事故以来ずっと気を張ってきた自分の心に気づき、ピンッと張っていた糸が緩んだ瞬間でした。
放射性物質による汚染の可能性が少ない土地でのびのび過ごすことによって、ストレスから解放され、体内の放射性物質の排出を促す効果があるといわれています。
私の息子が以前保養に参加した際に、たらちねクリニックを通じて、尿中のセシウム測定を行ったことがありました。日常の食事には気を付けていましたが、息子の尿からはセシウムが検出されました。保養前と保養後で尿を採取し、測り比べをすると保養後の尿は保養前の尿と比べ約半分に減っていました。
現在、たらちねクリニックでは18歳以下の子どもは無料で尿中のセシウム測定をすることができます。保養前後で測り比べをする方も多く、全体的に見ても保養後の数値が下がっているケースが多いです。福島で生活をしている以上、食事やあそび場など環境から受ける避けられない被ばくがあります。そういった環境の中で日々過ごす子どもたちにとって、保養は原発事故問題が終結するまで継続的に必要不可欠なものであると思います。
●被ばくを避ける権利と自由を
年月が経つとともに風化が進むほど、原発の問題や放射能汚染の懸念は口に出しづらい風潮になってきています。子どもたちには守られる権利があり、被ばくを避ける自由がありますが、社会の中で関心が薄れていくほどに子どもたちを守る権利や自由がどんどん狭まっているのが現状です。
子どもたちの“今”と“あした”を守り育てるためには社会全体でその道を指し示していかなければなりません。子育て中の一人の母親として、そしてこの問題の責任を担う一人の大人として、できることは何かを反芻しながら、これからも日々の活動を続けていきたいと思います。
「沖縄・球美の里」(久米島)での保養
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