
大切にしたい種のこと
岩崎政利(種の自然農園園主)
9月9日(日)、「よつばの学校公開講座」を開きました。塩川恭子さんにコーディネーターをお願いしているこの講座の今年度第3回目となります。今回は、種の自然農園・岩崎政利さんを講師にお招きしました。今年は4月に「種子法」が廃止され、「種苗法」も自家採取を原則禁止する方向で検討が始められるなど、よくない意味で「種」に注目が集まる年になってしまいました。このままでは多国籍企業による種子支配をますます許す方向に国内体制が変えられてしまいます。しかし、人が命をつなぐためになくてはならない種子は、人類の共有財産であり、私企業によって独占されるべきではありません。
このような流れに対抗していくために、よつ葉としてはどんな取り組みが可能なのか議論を進めています。「よつばの学校」運営委員会でも、今回の公開講座をその一環と位置付けて、農業の現場での種子を守る取り組みについて話を伺う機会にしたいと話し合ってきました。そこで、長崎の地で30年にわたって自家採取を続け、在来種・固定種を守ることに力を注いでこられた岩崎さんをお招きし、タネへの思いを語っていただきました。
当日は、雨の中を約100名の方がご参加くださり、岩崎さんが育てた野菜の試食も交えた充実した講座となりました。次号には、参加された会員さんの感想文を掲載します。今月号では、講師を務めてくださった岩崎さんに寄稿をお願いしました。 (編集部・下村)

「よつばの学校」公開講座 9月9日、ハービスENT
* * *
種 物 語
私の農園では、人の思いがいっぱいに詰まっている、物語のある種が、いろいろなところから、ひとつひとつと、集まってきています。その種のひとつひとつにそれぞれに物語があります。遠くは外国からやってきて、風土の違いに戸惑いながらも、私の畑の風土に、私の農園になじんでいこうとかんばっている、今は、まだすこし寂しがりやの種。
やっぱり自らの生まれ育ったふるさとに帰りたいのかなあ。人間で言えば、いまは、まだ留学生なんですね。
今は、種のブームが始まろうとしているのですが、特に人がほしがるのが、門外不出の種です。なかでも京都には京野菜として、農家がそれぞれに家宝のようにして代々守ってきた大切な種が今でも残っているのですが、そんなに大切な種になりますと、とても分けてくださいとは言えないものです。そんな門外不出の種がすこしずつ、私の農園にも、集まってきつつあります。
それよりも、今私が一番に、大切にしていこうとしている種は、いまは、人にはあまり見向きもされずに、今まさに消えようとしている在来種、固定種の種、そして長い歴史の中で、山奥でひっそりと、数人の中で守られながら、時の出番を待っている、まさにこれから脚光を浴びようとしている、まぼろしの種。
そして、さらにこれから見つけ出していきたいのが、隣のじいちゃん、ばあちゃんたちが、小さな家庭菜園の中で、自らが食べ続けている、ずーっと昔から作り続けている、今はさりげない種であります。それは、すぐに世には出せないほど多様性があり過ぎる、ばらばらの種なのかもしれませんが、守っていかないと終わってしまう可能性がとても大きな種でもあります。
種とは、まるで家の中で飼っている猫、かわいい犬によく似ています。私は、今はそんなに必要がなくても、これから求められつつある、作りやすく、生命力、おいしさ、多収、そしてこれから一番に大切な有機資材をあまり必要としない、ようするに、賢い種をひとつひとつ集めていこうとしています。人の願いをかなえてくれる賢い種をひとつひとつ集めては、広げていく。そんな種がよってくれる、種の癒しの場所、それが私の「種の自然農園」の役割でもあります。渡り鳥たちが、目的地にたどり着くためには、まさに休憩する地が必要なのですよね。疲れた体を癒して再び飛び去っていく、それを種たちにたとえていけば、種の自然農園のこれからの役割がはっきりと見えてきます。
いのちの種、こころの種、歴史をつなぐ種
種には、人の物語がずっしりと詰まっています。
種には、風土の情報が、次々に入っています。
種は、自らの次世代を守る生命力を高めようとしています。
種は、人の心が通じるかのように、願う姿に変わろうとしています。
今時代は、食の安全が、一番に問われ続けていますが、実は、これからますます求められていく、この安全を高めていくには、この種たちに、私たちの願いを心からこめていくことなんですよね。それでも早くて10年近くになって初めて答えてくれるのが、種なんですね。人は決して早くしてはいけないのですよね。

畑の中の岩崎さんと収穫された野菜たち
いわさき・まさとし 1950年、長崎県生まれ。雲仙市で自家採取による有機農業を行い、在来種、固定種を守ることに力を注いでいる。その一つとして復活させた雲仙こぶ高菜は、絶滅危惧食材を守り伝える世界スローフード協会の「味の箱舟」計画に日本で初めて登録された。NPO法人・日本有機農業研究会種苗部の幹事、「スローフード長崎」の代表などを務める。著書に『岩崎さんちの種子(たね)採り家庭菜園』(家の光協会)、『つくる、たべる、昔野菜』(新潮社)など。