暴走を始めたゲノム操作食品
天笠啓祐 (環境・食品ジャーナリスト)
遺伝子組み換え食品が登場してから20年以上がたちました。いま「遺伝子組み換え」とは違う、「ゲノム編集」「RNA干渉法」といった、新たな遺伝子を操作する技術を応用した食品が登場してきました。これらをゲノム操作食品といいます。
●「遺伝子組み換え」とはどこが違うの?
遺伝子組み換えとゲノム編集の違いとはどんなところにあるのでしょうか。ゲノムとは、その生物が持つすべてのDNAのことです。そのDNAの上に遺伝子がありますので、すべての遺伝子のことを意味します。ではなぜ遺伝子といわずゲノムというのでしょうか。遺伝子組み換えは、ほかの生物の遺伝子を導入する技術です。例えば、成長の早い魚の遺伝子を導入して、成長を早めた魚づくりが行われています。その際、導入した遺伝子はゲノムのどの位置に入り込むか分かりません。
それに対してゲノム編集やRNA干渉法は、遺伝子の働きを壊す技術です。その最大の特徴は、どの遺伝子を壊すかを指定できることです。しかもゲノム編集では、その位置に新たに遺伝子を挿入することもできます。このように自由自在にゲノムを操作できるということで、ゲノム編集と名づけられました。遺伝子組み換えから見ると格段に、遺伝子操作が容易になり、しかも自在に操作できるところに特徴があります。
●生物に障害や病気を起こす技術
まだ遺伝子を壊すだけですが、それだけで、さまざまな操作が可能になります。例えば動物にはミオスタチンという筋肉量が多くなりすぎるのを抑える遺伝子があります。この遺伝子を壊しますと、筋肉量を制御できなくなり、家畜や魚は筋肉質になるとともに、成長が早く大きくなります。すでに成長が早く肉の多い牛や豚などの家畜、トラフグやマダイなどの魚が誕生しています。逆に成長ホルモンに関係する遺伝子を破壊され、成長しなくなったマイクロ豚も誕生しています。
生物は体の全体で調和を図っています。もしバランスが崩れると病気や障害になります。背を高くしようとする遺伝子があれば、抑制する遺伝子があります。そのバランスで適度な背の高さが維持されています。臓器や組織間でも連絡を取り合い、血圧を上げたり下げたり、ホルモンの分泌を増やしたり減らしたりして、一定の状態を維持しています。遺伝子を壊すと、そのバランスが崩れます。生物に意図的に障害や病気を起こす技術なのです。
作物の開発状況を見ると、除草剤耐性ナタネがすでに米国で栽培が始まり、市場に出ています。その他にもトランス脂肪酸を含まない大豆、変色しないマッシュルーム、ソラニンを減らしたジャガイモ、アクリルアミド低減ジャガイモ、干ばつ耐性トウモロコシ、収量増小麦などの開発が進んでいます。日本でも農業・食品産業技術総合研究機構が、「シンク能改変稲」を開発し、2017年から栽培試験を始めました。この稲では、植物ホルモンの分泌を抑制する遺伝子を破壊しました。その結果、植物ホルモンが増加し、花芽の分化が促進され、籾数が増加し、収量増加につながると考えられています。
ゲノム編集は、DNAを切断して遺伝子を壊す技術です
筋肉をコントロールする遺伝子を壊すと、成長が早く肉の多い魚が誕生します
日本でも昨年からゲノム編集で開発された稲の栽培試験が始まりました
もみ数を増やし収量を増やすのが目的で開発されました(農研機構ホームページより)
あまがさ・けいすけ 1947年東京生まれ。ジャーナリスト、日本消費者連盟共同代表、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表、市民バイオテクノロジー情報室代表。市民の立場から遺伝子組み換え技術や農薬、化学物質の危険性について分かりやすく解説。近著に『子どもに食べさせたくない遺伝子組み換え食品』、『遺伝子組み換え鮭がやって来る!』、『ゲノム操作食品の争点』など。よつ葉のカタログ『life』に「教えて天笠さん」を連載中。
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