種子法廃止は何をもたらすか
印鑰 智哉(日本の種子を守る会事務局アドバイザー)
主要農作物種子法(以下種子法)は今年3月末に廃止されることになりました。廃止される種子法とはどんな法律でしょうか?
コメ、麦、大豆の良質の種子の生産と供給を国に義務付けたもので、戦後、サンフランシスコ講和条約の発効直後に制定され、戦後日本の食を守ってきた法律と言えます。しかし、この廃止の決定をめぐる経緯は異例づくしのものでした。農業の根幹法とも言える法律を変えるためには現場の種採りに関わる人たち、そして農家はもちろん、消費者の声も聞く必要があるでしょう。しかし、TPPを推進するために作られた規制改革推進会議の決定に基づき、官邸の司令でまともな審議もなく、あっという間に廃止が決定されてしまったのです。
種子法はどんな役割を担ってきたのでしょう? 米の種籾を作るには時間がかかります。品質のよい種籾を作るために4年の歳月をかけて農家に配布する種籾が作られています。もし、種籾が足りないという事態になったとしても急いで作るということができません。そのため、計画的に不足する事態が起きないようにこの種子法の下で、種子計画が作られています。その成果で、戦後、種籾が足りなくなったために、市民が飢えるという事態になることは避けられました。
また、日本は南北に長く、しかも山間地の多い地形もあって、農業環境は地域によって大きく異なります。その条件にあった多様な種子が必要となります。この種子法の下で、冷害の多い地域でもおいしいお米がどこでも取れる時代になっていますが、それはこの種子法の下での開発の成果と言えるでしょう。
高い評価を受ける種子法をなぜ、政府は廃止したのでしょうか? 民間企業の参入を図るため、の一言に尽きます。それでは今、種子企業の動向はどうなっているでしょうか?
●独占進める種子企業
戦後、農薬と化学肥料を使った「緑の革命」が世界で進みます。その中で、種子企業は自らが開発した種子の開発権を主張するようになります。特に80年代以降、遺伝子組み換え技術が開発され、そうした遺伝子組み換え企業は各国政府、国際機関に働きかけ、そうした種子の開発者の知的所有権を保護する制度を作り上げました。UPOV(ユポフと呼びます)1991年条約とWTO協定の一部であるTRIPS協定がそれです。また米国では遺伝子組み換えされた生命体はその組み換えをした開発者の特許物(発明物)としてみなされるという最高裁判所の判決が出ました。たとえば大豆は長い歴史の中で多くの先祖たちが作り上げてきた公共財産ですが、それにたとえば大腸菌の遺伝子を加えただけで(多くの遺伝子組み換えがそうやって作られます)、その大豆そのものが遺伝子組み換え企業の発明物とされてしまうのです。
この判決によって大豆は公共財産ではなくなり、モンサントなどの遺伝子組み換え企業の独占物に変わります。つまりモンサントの大豆はあくまでモンサントの財産ですから、それを農家は借りて、生産することができるけれども、それを保存して、再利用することは一切許されなくなるのです。
種子企業の知的所有権は自由貿易協定を通して世界各国に強制されていきます。このUPOV1991年条約を批准した国は国内法で、農家の種子の権利を制限することが義務付けられます。ラテンアメリカの国々でも次々に農家から種子を奪う法案が登場し、世界最大の種子企業であるモンサントを利する「モンサント法案」として大きな抗議運動が繰り広げられました。事態はアジア、アフリカにも広がっており、TPPの中でも参加国にUPOV1991年条約の批准を義務付けることが明記されています。こうした形で農家の種子の権利はあっというまに剥奪されつつあります。
しかし、世界の農民運動は黙っていません。農家の種子の権利を守るための行動や、実際に種子を交換したり、守るネットワークを強化して対抗しています。
映画『種子-みんなのもの? それとも企業の所有物』
日本語版製作プロジェクトをよつ葉も支援しています。
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