(その36) 言葉による統治、言葉による弾圧
配達先の会員さんの息子さんがバルセロナの日本食レストランで働いていて、カタルーニャ独立を巡る争いで「何もなければいいのに」と案じておられます。現地でお孫さんらが通う保育園でもカタルーニャ語が使われるようになったそうです。
今から500年以上前、イベリア半島はイスラム教徒が支配していたのですが、キリスト教の王がイスラム教徒を追い出して王国を設立します。世界史で言う「失地回復」で、そのイザベラ女王はその勢いをかって、イエズス会の宣教師らと手を組んで世界の布教へ乗り出します。イスラム教徒(アラブの商人)に独占されていたインドや中国との貿易に取り組む狙いもありました。陸路(シルクロード)はダメですから海路をめざしました。アフリカ大陸沿いにインドを目指した者たちと、大西洋を横断して目指した者たちがありました。その結果、もうひとつのインドの発見につながり、しかもこちらにはインカ帝国という宝の山があり、略奪の限りを尽くし、スペインは豊かになりました。
もうひとつ、イザベラ女王は「私の言葉を理解できない人々がたくさんいるのは不都合なことだ」と言語による統一と統治をめざしました。
時代がずっと下って第一次世界大戦の後、ヨーロッパ各国で王制が廃止され共和制が生まれました。スペインでも左派の人民戦線政府ができました。ところがフランコ将軍が反乱し、そこへヒトラーが加担してゲルニカ爆撃が行われ、1939年に反乱軍側が勝利し、フランコは総統となりました。このフランコ総統が徹底してカタルーニャを弾圧し、カタルーニャ語をしゃべるだけで投獄するような圧制が行われました。何と75年まで続きました。
日本でも明治政府が日本語の教育に取り組みました。「正しい日本語」が教えられるようになるとその裏返しとして、各地で母から子へと受け継がれている言葉が「汚い言葉」や「正しくない言葉」になってしまいました。今ではだいぶなくなりましたが東京都の人たちには明らかにズーズー弁に対する差別意識がありました。また沖縄の学校では方言を使うと首から「方言板」をかけられたりしました。そして、朝鮮半島を植民地化したとき、日本語を強要したばかりか、名前まで日本風に改めさせました。フランコ総統にも匹敵する蛮行と言えましょう。
学生の頃、漫画家の手塚治虫さんの作品が好きでよく読んでいました。中でもロボットと人間の触れ合いを描いた「鉄腕アトム」、医学者でもある彼が医学を通して人間の本質を描いた「ブラックジャック」、不死鳥を通して生命の流れを描いた「火の鳥」などが好きでした。
最近、世の中の出来事の中で彼が昔描いていた事が現実におこりつつあるように感じます。いろいろありますが例えばロボット社会などです。彼は単に人間の仕事がどんどん機械化されていくということを越えて人間とかかわることによるロボットの悲しみまで描いていました。また天才外科医であるブラックジャックが危篤状態の殺人犯を頼まれて手術で治したのですが裁判で死刑になってしまい、それならなぜ自分に治させたと法律と倫理を問う場面は考えさせられました。ただ戦争を嫌い平和を愛した彼は一貫して人間の本質を信じて前向きな考えが作品に表れていたように思います。現在彼の思っていた時代になっているのか今後どういう時代になっていくのか、もし彼が今も生きていればどう感じているのか問うてみたいです。
(奈良産直・米田 寛)
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