石けんの有機物負荷が問題なのではない
朝日新聞くらし「洗剤を考える」(2001年1月)を読んで
会員 ”何がいいのか迷っている”に答える

朝日新聞の言い分

 「長年、石けんを使ってきましたが、合成洗剤に変えた方が環境にはいいのでしょうか?」というような問い合わせが会員さんから何件か寄せられました。どうしてかと思いましたら、『石けんも地球を汚す? 合成洗剤とどちらがいいか』というタイトルで1月8日から朝日新聞・家庭欄「くらし」で4回にわたって特集が組まれていました。

 特に一回目は、タイトルからして石けん派を挑発するような内容でした。合成洗剤の方が環境負荷が低いため、都市では合成洗剤をつかうべきだ、と国立大学の助教授の意見を中心に書かれており、合成洗剤の方が優れているとも読める内容でした。

 その後三回も石けん派の意見は引用するものの、最後は日本石鹸洗剤工業会の以下のような話で締めくくられています。「国内、海外とも、合成洗剤は通常の使用では問題がないことが1980年代初頭までに確認されている。洗剤の安全性に疑問が出されるときは決まって、現実とかけ離れた条件下での実験結果を都合のいい結論に導いている傾向がある」と、合成洗剤寄りの見解です。

 本当にそうだろうか

 そこで、石けんと合成洗剤について、もう一度考えていきたいと思います。朝日新聞では、有機物の負荷の点を大きく取り上げ、石けんが環境に悪いと書いてあります。有機物は微生物のエサになるが、量が多すぎれば生態系のバランスを崩しまうという見方です。

 しかし、石けんにより有機物負荷が増え、生態系のバランスを崩した例があったでしょうか?1950年代の終わり頃には洗濯用石けんは現在の倍近く使われていましたが、石けんが環境や人体に何か問題を起こしたでしょうか。それに対して、合成洗剤はその普及とともに、泡公害、富栄養化、主婦湿疹など環境や人体にさまざまな問題を起こし、1999年7月には合成洗剤の主成分であり、大量に使われている界面活性剤のLASやAEがPRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)の第一種特定化学物質に指定されるに至っています。

 長谷川治氏(太陽油脂株式会社)は、洗剤・環境科学研究会誌のなかで次のように合成洗剤による影響を述べています。「家庭では浄水器をつけるのが常識になりつつあり、学校へ麦茶水筒を持参することも認めざるを得なくなっています。川にはホタルは言うまでもなく、メダカ、アユ、ウナギも棲めなくなりつつあるのが実態です」。こうした実態をふまえて、旧環境庁や旧通産省はPRTR法を1999年7月に制定しました。そして以下の六種の界面活性剤が、第一種指定化学物質とされました。

・アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩(直鎖型)・N・NジメチルドデシルアミンNオキシド・ビス(水素化牛脂)ジメチルアンモニウムクロリド・ポリ(オキシエチレン)アルキエーテル・ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル・ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル

 そして、化学品審議会や中央環境審議会で、有害汚染化学物質として以上六つの界面活性剤を指定したのです。つまり、企業寄り、工業会寄りだった旧通産省、旧環境庁でさえも、この六つの界面活性剤は「人の健康を損なうおそれ、または動植物の棲息もしくは生育に支障を及ぼすおそれがあるもの」であり、「相当広範な地域の環境において継続して存する」(法第二条第二項)と認めたのです。工業会では、これらの界面活性剤が「指定化学物質」に入らないよう要望書を提出しましたが却下されました。それどころか、工業会の「LASは生分解性がよくなった」という主張は、「バクテリアが訓化された(慣らされた)状態での実験室でのデータであり、実際の環境では分解されずに残留している」(通産省化学課長講演より)として認められなかったのです。

あいかわらずの御用学者

 朝日新聞一回目の記事で、石けんと合成洗剤の特徴を生かすため、横浜国立大学の大家助教授は使い分けを提案しています。「▽生活雑排水が処理されずに小川に流れ込むようなところは石けん▽水源の湖など、有機物を減らす必要があるところは分解性のよい合成洗剤▽下水道などが整っていれば、石油系原料の合成洗剤」という提案です。さらに、「石けんにすべき場所で、合成洗剤が使われているところも多い。逆に、下水道が整っている都市部で石けんを使うのはぜいたくだ」とも付け加えていました。

 しかし、前述の長谷川治氏は静岡県の三島市光ヶ丘団地や富士市富士見台下水処理場では、合成洗剤から石けんに切り替えると、処理効率や処理水の向上が認められた、と報告しています。「LASが下水処理で生分解される」ということは、あくまで一次分解のことであり、また活性汚泥に吸着されるだけのことです。石けんは活性汚泥中のバクテリアのエサになって働きを強めますが、LASなどの合成洗剤はバクテリアを弱め、活性汚泥を早く取り替えねばならなくなります。

合成洗剤の怖い実態

 また、高田東京農工大学教授は次のように言っています。

 「有機物の負荷の点では、石けんは合成洗剤に比べると環境への負荷の大きいのは事実ですが、それは使い方で低減できる問題です。特に下水道の普及した地域では、人が一日に排出する有機汚濁負荷は石けんを使った場合が60g、合成洗剤を使った場合が50gで、下水処理場の処理能力を考えると差は小さいと考えられます。この数字自体もできるだけ少量を使用するという努力をしない場合の数字ですから、適量使用を心がければさらに小さくなります。 問題は、合成洗剤と石けんの質の問題です。合成洗剤には、環境中に残留する成分が含まれています。アルキルベンゼンと蛍光増白剤です。残念ながら、下水処理場でも十分には分解することができません。東京湾の泥はもとより、太平洋の泥の中までこれらの物質による汚染は広がっています。琵琶湖の湖底からも検出されます。 分解性の悪い成分が含まれる合成洗剤は、水源の湖での使用は控えるべきです。水源地域等の山の中に棲む魚は化学物質に敏感です。記事全体の視点が有機物負荷に重きがおいてあり、21世紀にみんなが考えるべき化学物質の観点が弱いことです。 LSA系合成洗剤から放出されるアルキルベンゼンは東京湾の堆積物だけでなく、東京湾に棲息する魚介類中からも検出されます。対象魚介類は、ムラサキ貝(ムール貝)という二枚貝とハゼです。いずれの生物からもアルキルベンゼンが検出されます。」

 引用が長くなりましたが、以上、合成洗剤の問題点を指摘しています。

環境意識を高めよう

 近年、環境意識の高まりから、石けんを使う人が増えてきています。合成洗剤メーカーは、この動きに対して強い警戒感をもってさまざまな手を打ってくることは当然考えられます。例えば、今回の朝日新聞の記事もその一つかもしれません。