『ライフ』2012年020号

毎日の食卓に上る食べ物の放射能汚染について “正しく怖がる”ために知っておきたいこと。

福島原発事故による食べ物の放射能汚染が広範囲に広がっています。
よつ葉が『今週のお知らせ』を通じて発表してきた中でも、
1kg当たり0.3 〜 40 ベクレル(Bq)程度の数値は幾度か検出されています。
これらの放射能汚染の数値を私たちはどのように考えたらよいのでしょうか?
「ここまでなら安全」と明確な線引きができない放射能汚染。
ここで紹介する数値や見解は、あくまでも私たち一人一人が主体的に考え、
判断していく上で参考にしていただくためのものだということをご理解ください。


自然界に存在する放射能と人為的に作り出された放射能

 放射能自体は自然界に広く存在しています。他方で原発事故等による放射能汚染は、日本中の思わぬ場所で広範に広がっていることも確かです。中には、今回の福島原発の事故ではなく、過去のチェルノブイリや原水爆実験の影響が推測されるような検査結果もあります。つまり私たちは、これまでも自然界の放射能と、ヒロシマ・ナガサキ以降の人為的な放射能の影響を受けてきました。今後は、それに福島原発の事故等による影響が付け加わることを覚悟しなければならない、ということなのです。

従来の「暫定規制値」は明らかに高すぎます

 政府は、食品に関する規制値を現在の「暫定規制値」を見直すことを発表しました。その内容は、算定根拠となる年間被曝限度を、現在の5ミリSv(シーベルト)から1ミリSvに引き下げること、食品区分は4分類に整理し、新たに年齢区分を「1歳未満」「1〜6歳」「7〜 12 歳」「13〜18 歳」「19 歳以上」を設けて年齢層毎に異なる影響度の違いを考慮するとしています。(2011年11月24日報道)

 (表1)食品に含まれる放射性物質(セシウム)の食品基準
  放射性セシウムの合計値(ベクレル:Bq/kg)

品目
ウクライナ
日本
1997年改定
暫定規制値
事故前
パン・パン製品
20Bq
500Bq
370Bq
ジャガイモ
60Bq
500Bq
370Bq
野菜
40Bq
500Bq
370Bq
果物
70Bq
500Bq
370Bq
肉類
200Bq
500Bq
370Bq
150Bq
500Bq
370Bq
ミルク・乳製品
100Bq
200Bq
370Bq
6Bq(1個あたり)
500Bq(kgあたり)
370Bq
飲料水
2Bq
200Bq
なし
粉ミルク
500Bq
200Bq
370Bq
野生イチゴ・キノコ
500Bq
なし
370Bq
幼児食品
40Bq
なし

 算定根拠の年間1ミリSvは、元々国が法律で定めた外部被曝による線量限度で
す。国際放射線防護委員会(ICRP)も「一般公衆が1年間にさらされてよい人工放射線の限度」として、年間1ミリSvを定めています。その意味では一定の基準として考えても良いかもしれません。但し、この年間1ミリSvは、「安全基準」ではなく、推進派の評価ですら「1万人に1人が被曝によるガンで死ぬレベル」なのです。また、この数値は食べ物を通じた内部被曝を考慮した数値ではありません。従ってこの1ミリSvもあくまでも目安程度に考えておく必要があります。
 今回、「暫定規制値」の引き下げの方向が示されましたが、そもそもこの「暫定規制値」が高すぎたのです。従来の年間被曝限度の算定根拠=5ミリSvは、単純計算すれば「2000人に1人がガンで死ぬレベル」です。更に子どもへの影響は大人の約4倍と言われていて、即ち「500人に1人がガンが死ぬレベル」なのです。せめて子どもへの影響を大人と同程度にすべきだと考えるならば、子どもの年間被曝限度は大人の1/4、年間0.25ミリSvでとどめるように規制値を設定すべきではないでしょうか?

すべての食べ物が「暫定規制値」だったら?

 仮に、飲料水以外のすべての食べ物が「暫定規制値」だったらどうでしょう。 『消費者レポート』で福島原発事故緊急会議の筑紫建彦さんが「子どもの食事すべてが放射線制限値だったら」と、厚生労働省の「食品群別摂取量」の統計を元に試算しています。(表2)
 それによると、7 〜 14 歳の子どもは年間で261,420Bqの放射性物質を摂取することになり、これはシーベルトに換算すると3.40ミリSvということになります。これは上記の数字から考えれば、概ね「750人に1人がガンで死ぬレベル」ということになります。

一人一人が冷静に“正しく怖がり”ましょう

 一方、極微量の被曝による影響は、良く分かっていないことも確かです。その意 味では、私たちは巨大な人体実験にかけられているようなものです。大変残念で腹立たしいことですが、私たちは福島の人たちと共にチェルノブイリの貴重な体験から学びながら、一人一人冷静に判断していくしかありません。
 例えば、2011年10月23日の「よつ葉 秋の交流会」で講演していただいた京大原子炉研 究所の今中哲二さんは、あくまで個人的な判断基準と断った上で「私なら、1kg当 たり10Bq程度の食べ物なら、あまり気にせずに食べますね」と言っておられます。よつ葉連絡会としてはこの今中さんの判断も参考にしつつ、得られた情報は適宜お知らせし、会員の皆さんと一緒にこの問題を考え続けたいと思います。
                          (ひこばえ 福井)

※『よつばつうしん』2011年12月号の河田昌東さんの文章もお読みください。


(表2)7 〜 14 歳の子どもが1日に食べる食品すべてが「暫定規制値」だったら
日本消費者連盟「消費者レポート」第1495 号より抜粋して表作成(グラム:g、ベクレル:Bq、マイクロシーベルト:μSv)

@1日に食べる量
A暫定規制値
(1kgあたり)
B1日あたりの放射能摂取量
@×A÷1000
C年間放射能摂取量
B×365日
ベクレル→マイクロシーベルト換算
C×0.013※
乳類・飲料類
569.6g
200Bq
113.92Bq
41580.80Bq  
541μSv
一般食品
1204.6g
500Bq
602.30Bq
219839.50Bq
2858μSv
合計
1774.2g
700Bq
716.22Bq
261420.30Bq
3398μSv
※国際放射線防護委員会の基準でセシウム137の実効線量係数は1Bqあたり0.013μSv           ※1000μSv=1ミリSv