第18回:病原菌と青かびとペニシリン
稲ワラに納豆菌がいるように、米ヌカには乳酸菌がいます。米ヌカに塩と水を加えてヌカミソを作り、野菜を放りこめばヌカ漬ができます。野菜が乳酸菌のエサになって繁殖し発酵が始まります。何もわざわざヨーグルトを食べなくても、日本人は昔から乳酸菌をいっぱい食べていました。
ヌカ漬はそればかりか、ヌカ油やアミノ酸などのヌカの栄養分を含んでいますから、玄米を食べるのと同じ効果があります。白米とヌカ漬はおいしいだけでなく、栄養学的にもすぐれた組み合わせです。
この米ヌカにウドンコ病を退治する力があるそうです。ウドンコ病というのはありとあらゆる野菜に発生する病気で、葉や茎がうどん粉をかけたように白くなります。ウドンコ病菌という菌が葉や茎に寄生することでおこります。寄生した菌は栄養を横どりして増殖しますからどんどん広がります。
野菜ばかりでなくバラにも発生するそうです。無農薬でバラを育てている会員さんから、ウドンコ病退治に米ヌカが効くということを教えてもらいました。前回、酵母菌が納豆菌を苦手にしているということを書きましたが、同じように、ウドンコ病菌は米ヌカに含まれる乳酸菌を苦手にしているのだと思います。
1929年、アレクサンダー・フレミングはブドウ球菌の培養実験中に、間違ってアオカビが発生したところでは、ブドウ球菌が繁殖しないことを発見しました。つまり、ブドウ球菌がアオカビを苦手にしていることを発見したわけです。
ここで終わらないのが学者のえらいところで、アオカビはブドウ球菌を攻撃する何らかの物質を作り出しているに違いない、その物質はブドウ球菌ばかりでなく他の病原菌にも効くに違いないと考えて、その物質をペニシリンと名付けました。ちなみにペニシリンというのはアオカビの学名です。抗生物質(抗菌剤)の発見です。
ただし、この物質を分離して精製できたのは40年のことで、フローリーという人とチェインという人の手柄です。翌41年には臨床試験でも効果が確認され、薬として世に出ることになりました。フレミングとフローリー、チェインの3人は45年にノーベル医学・生理学賞をもらっています。
もういちど、ただし、です。ペニシリンが効果を発揮したのは一時のことで、すぐに耐性菌が出現しました。後は抗生物質と耐性菌のいたちごっこです。それどころか、家畜の飼育にまで抗生物質を多用した結果、O157という化け物のような大腸菌を生み出すことになりました。牛のおなかの中で、耐性をもったある種の大腸菌が赤痢菌と合体してできたと言われています。弱い大腸菌ですから、他の大腸菌が繁殖している所では生きていけません。日頃から野菜をしっかり食べて、腸内の大腸菌や乳酸菌が元気にしている人は、O157の中毒をあまり心配しなくていいと思います。
抗生物質の発見で感染症が減ったように言われていますが、そうではありません。たとえば、結核がそうです。今でも結核菌はうじゃうじゃおります。発症する人が少ないのは栄養状態がよくなって、それぞれの人の免疫力が高まっているために、感染しても退治してしまうからです。
先日も居酒屋チェーン店の名ばかり店長が結核で死んだと小さな記事がありました。過労と、おそらく食事もちゃんととれてなくて、免疫力が弱っていたために発症し、単なるカゼぐらいに思っていたのではないでしょうか。発症した人の治療に抗生物質は有効ですから、限定して使うべきだと思います。ただし、腸内細菌も殺してしまいますから、下痢などの副作用を覚悟しなければなりません。 |