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2010年5月号(第286号)

一粒の種からつながる世界
「原発はクリーン」のウソ
くらしからの政治
野良仕事のひとりごと
京都から生産者自己紹介
ぐるーぷ自己紹介チャイルド工房
会員のひとりごと
/お弁当に華を!〜よつ葉の食材で一工夫〜
おたより掲示板
タイバナナ、産地を訪ねて
うまい話まずい話
福祉だより
みんなで考えよう昼ごはん
めざせ!半歩先〜命つむぐために〜
ヒー・コー・バー、編集後記




 かつては身近に田んぼや畑の畦に植えられた大豆は、その家ごとに作る味噌や醤油の原料として我が家の味を育む、日本の食の中心的作物でした。ところが今、消費量の95%以上を海外からの輸入に頼り、日本の農村から大豆づくりが消えていこうとしています。そんな大豆を自分たちでまず栽培して、醤油や味噌、豆腐に加工してもらう取り組みを、よつ葉の「大豆くらぶ」として始め5年目を迎えます。地場農家やよつ葉のにんじんクラブの畑、そして協力してもらっている滋賀県の農家だけでなく、2年前からは大豆づくりの呼びかけをよつ葉の会員の皆さんにも拡げ、家庭のベランダや庭でも大豆づくりに挑戦してもらい、その大豆も一緒に加工してもらうようになりました。昨年は約300人の方が申し込まれ、秋には127名の皆さんから収穫された大豆(数gから15kgまで)を届けていただいて、総量約51kgになったこの大豆も醤油や味噌、豆腐の加工原材料として出荷されました。
 今年も会員の皆さんに大豆づくりにチャレンジしてもらって、収穫の喜びと加工されて醤油や味噌、豆腐に変わる時間の流れを感じてもらおうと考えています。大豆づくりをきっかけに、気軽に自分の出来るところから“農”に親しんでもらえればと、6月5日(土)に講演会を企画しました。講師に茨城県の有機農業家で日本有機農業研究会副理事長でもある魚住道郎さんをお招きして、農家と消費者が繋がってお互いに自分たちの食べもの、暮らしを成り立たせていく関係自給農縁≠ノついてや、東京で実践されている街中の公園を有機栽培で耕し、農の魅力を多くの人に伝える活動についてお話しいただきます。(よつば農産・深谷真己)

世界に広がる提携の輪
魚住道郎(有機農業者)


▲大豆から醤油へ杉板の桶で熟成中(大徳醤油)

 有機農業運動は、戦後の近代化過程での環境破壊・汚染、生物多様性の喪失、農地の疲弊に直面し、農業のあるべき姿、生産と消費のあり方を模索してきた。私たち日本有機農業研究会は40年ほど前から、有機農業で生産者と消費者とが直接提携する取り組みを提案し、今日まで実践し続けている。
 この取り組みは、命ある食べものを商取引の対象にするのではなく、安全で命あふれる食べものを生み出す生産へのまっとうな対価として、生産者が自らその生産物の値段を付け、消費者がそれを理解し受け止め、相互に支え合う関係である。相互扶助の協同の精神に基づくこの「提携」は日本から発信されてアメリカへ、そしてヨーロッパから世界各国へ急速に着実に広がりつつある。
 多国籍企業によるグローバリズムに抗する形で、小規模で「顔の見える」有機農業の生産者と消費者の「提携」は今日、世界の人々の取り組みとして受け入れられ、定着し広がりつつある。
 有機農業の素晴らしさは、作物も、雑草も、害虫も、益虫も、ただの虫も、動物たちも、みんなその存在を認め合い、生きていることである。そして、それにかかわる生産者も消費者も共に支え合い、生きている。
 すなわち、有機の世界は「共存」「共生」「協同」の喜びと手応えを感じられることなのだ。市場、競争の原理ではなく、他者を思いやる共生、協同の原理に基づく社会に変えていかねば、地球規模の環境破壊、温暖化は食い止めることはできないであろう。
 私は、この「提携」の精神を土台にし、生産者は作る人、消費者は食べる人という仕切りの壁を壊し、出会いの“縁”で「自給農縁」運動を展開できればと思う。
 また、有機農業の土の核心をなす「腐植」(土壌有機物)が、健康な森の営みの上でも、生物豊かな「海」をつくる上でも、大変重要な働きをしていることが、近年の研究から分かってきた。
 私たちは、「提携」を“生産消費協同”としてあらためて位置付け、農業分野にとどまることなく、森と里と海をつなぐ流域全体の取り組みとして、自給と提携を広げていきたい。それぞれの地域で、それぞれの国で、有機的流域自給農林水産プロジェクトとして取り組み、森、里、海の「提携」ネットワークづくりを提案していきたい。
 私の地元・茨城の有機農業推進計画には、この視点が盛り込まれているが、いかにしてこのプロジェクトを進めていくかはこれからだ。
 グローバル市場経済の破綻から、農業でもコスト削減のための外国人労働者の流入と依存、耕作放棄地の増加が目立つ。食料自給率の向上には程遠く、他国の食糧を輸入によって奪っている。公正な労働、平和な世界のため「協同」の行動が、今こそ求められている。


魚住道郎(うおずみ・みちお)さん(有機農業者)
 1950年、山口県生まれ、茨城県石岡市在住。東京農業大学在学中の70年から有機農業の実践的研究を開始。74年から「たまごの会八郷農場」建設に携わり、その後独立。80年「魚住農園」開設。日本有機農業研究会副理事長、全国有機農業推進委員会委員などを務める。農家と消費者が繋がってお互いに自分たちの食べもの、暮らしを成り立たせていく関係“自給農縁”を提唱・実践している。