
▲大豆から醤油へ杉板の桶で熟成中(大徳醤油) |
有機農業運動は、戦後の近代化過程での環境破壊・汚染、生物多様性の喪失、農地の疲弊に直面し、農業のあるべき姿、生産と消費のあり方を模索してきた。私たち日本有機農業研究会は40年ほど前から、有機農業で生産者と消費者とが直接提携する取り組みを提案し、今日まで実践し続けている。
この取り組みは、命ある食べものを商取引の対象にするのではなく、安全で命あふれる食べものを生み出す生産へのまっとうな対価として、生産者が自らその生産物の値段を付け、消費者がそれを理解し受け止め、相互に支え合う関係である。相互扶助の協同の精神に基づくこの「提携」は日本から発信されてアメリカへ、そしてヨーロッパから世界各国へ急速に着実に広がりつつある。
多国籍企業によるグローバリズムに抗する形で、小規模で「顔の見える」有機農業の生産者と消費者の「提携」は今日、世界の人々の取り組みとして受け入れられ、定着し広がりつつある。
有機農業の素晴らしさは、作物も、雑草も、害虫も、益虫も、ただの虫も、動物たちも、みんなその存在を認め合い、生きていることである。そして、それにかかわる生産者も消費者も共に支え合い、生きている。
すなわち、有機の世界は「共存」「共生」「協同」の喜びと手応えを感じられることなのだ。市場、競争の原理ではなく、他者を思いやる共生、協同の原理に基づく社会に変えていかねば、地球規模の環境破壊、温暖化は食い止めることはできないであろう。
私は、この「提携」の精神を土台にし、生産者は作る人、消費者は食べる人という仕切りの壁を壊し、出会いの“縁”で「自給農縁」運動を展開できればと思う。
また、有機農業の土の核心をなす「腐植」(土壌有機物)が、健康な森の営みの上でも、生物豊かな「海」をつくる上でも、大変重要な働きをしていることが、近年の研究から分かってきた。
私たちは、「提携」を“生産消費協同”としてあらためて位置付け、農業分野にとどまることなく、森と里と海をつなぐ流域全体の取り組みとして、自給と提携を広げていきたい。それぞれの地域で、それぞれの国で、有機的流域自給農林水産プロジェクトとして取り組み、森、里、海の「提携」ネットワークづくりを提案していきたい。
私の地元・茨城の有機農業推進計画には、この視点が盛り込まれているが、いかにしてこのプロジェクトを進めていくかはこれからだ。
グローバル市場経済の破綻から、農業でもコスト削減のための外国人労働者の流入と依存、耕作放棄地の増加が目立つ。食料自給率の向上には程遠く、他国の食糧を輸入によって奪っている。公正な労働、平和な世界のため「協同」の行動が、今こそ求められている。 |