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2010年4月号(第285号)

「よつ葉2010年春交流会」島村菜津さん講演会(要旨)
スローフードな生き方!
普天間基地問題―沖縄からの声
くらしからの政治
野良仕事のひとりごと
岩手から 生産者自己紹介
ぐるーぷ自己紹介 くりぱんクラブ
会員のひとりごと/お弁当に華を!〜よつ葉の食材で一工夫〜
おたより掲示板
「よつ葉2010春交流会」に参加して/「書籍カンパ販売」へのご協力ありがとうございました /
うまい話まずい話
共済だより よつ葉共済会日暦(5)
みんなで考えよう昼ごはん/広島市に新しいセンターができました!/チェルノブイリ24年救援コンサート
連載 めざせ!半歩先 〜命つむぐために〜
ヒー・コー・バー、編集後記



「よつ葉2010年春交流会」
島村菜津さん講演会(要旨)

スローフードな生き方!

 3月7日に「よつ葉2010年春交流会」を開きました。雨で野外の展示は中止になりましたが、多くの会員さんがご来場くださり、生産者やよつ葉職員との交流を楽しんでいただきました。当日はブース出展のほか、島村菜津さん講演会と4つのテーマ別交流会を開きました。今月号はその中から島村さんの講演会の要旨を紹介します。(文責=編集部・下村/「おたより掲示板」「春の交流会に参加して」に関連記事)





(上)講演中の島村菜津さん、(下)八木澤商店・河野さん(中央)、よつ葉のイタリア食材コーディネーター・松嶋さん(右)にも発言をいただいた交流会
 私は大学時代まで悪食の部類でした。きちんとした味噌汁すら作れなかったし、ファストフードのお店にもよく行きました。その後、体を壊しました。そのうちに、本を書くためにイタリアに滞在していると、体調が良くなることに気付いたんです。これは食だなと思いました。そして、そういうことを本で表現したいと思っている時に、「スローフード」という言葉に出会ったのです。それは、1986年、ローマへのファストフード進出をきっかけに始まった運動でした。
 まず、当時の『スローフード宣言』の一部を紹介します。「我々みんなが、スピードに束縛され、(中略)“ファストフード”を食することを強いる“ファストライフ”という共通のウイルスに感染しているのです。いまこそ、ホモ・サピエンスは、この滅亡の危機へ向けて突き進もうとするスピードから、自らを解放しなければなりません」。そして、「我々の反撃は、スローフードな食卓から始まるべきでしょう」と書かれています。私はこの宣言文に魅せられて、取材を始めました。
 それから、イタリアと日本を行き来している何年かの間に、東京のどの駅前も、どんどん隣の駅と似通っていきました。個人商店が潰れ、チェーン店が広がりました。「これから均質化の大波が地球を包み込むだろう」という彼らの言葉を痛感しました。私たちが漫然と食べていれば、スーパーの棚だけではなく、町の景色さえ均質化する。だから、おいしいものを真ん中にして、人と人の関係、人と自然の関係、町のあり方まで問い直そうと言っていたんですね。

夢のある話をしよう

 三重県多気町に「まごの店」という高校生のレストランがあります。県立相可高校の食物調理科の生徒が料理を作っています。高校生が、木曜と金曜の朝5時半くらいに起きて週末の開業のための仕込みをしているのです。だしも、昆布とかつお節で大鍋できちんととっています。化学調味料は一切使いません。丁寧な仕事ぶり、一生懸命な接待ぶりに感激しましたね。
 停滞する地方経済とか、広がる格差とか、ネガティブな話ばかりですよね。でもこういう夢のある話もあるんです。映画やドラマになるという噂もありますが、ポジティブなエネルギーがあるからでしょう。この町のエネルギーの源は、これからどういうふうに生きていこうか、大恋愛できるかなって思っている前向きな子どもたちに視線を合わせたところにあると思います。
 話を戻しますと、まず、スローフードが目指しているのは、別にファストフードに消えてなくなれ、ではないということです。安ければ南半球の生産者から買い叩いて、彼らの子どもが学校に行けなくても関係ないという大量生産・大量流通の時代に、食べものの質を改めて問うことで、食卓から反撃しようというのです。その質の一番根っこには、自然と向き合いながらおいしいものを作ってくれる、あるいは加工してくれる人たちがちゃんと暮らせなければならないということがあります。これがスローフードの基本だと私は思っています。
 2つ目は、子どもを含めた食べる側の味の教育です。今は国家戦略で食育なので、ちょっと口にするのが恥ずかしい感じがありますけど。問題なのは私たちが今、何を食べているかということが、きちんと伝わっていないことです。まずこれを知って子どもたちに教えながら、自分たちの食卓も見直そうということです。
 3つ目は、放っておけば消えそうな味を守ろうということです。ヴァンダナ・シヴァというインドの環境活動家がいます。チョコレート、コーヒー、バナナなど南の産業が、現在も植民地主義の名残を残したまま、多国籍企業に支配されていることを批判している人です。私が訪ねたとき、彼女はバスマティライスというインド在来の米の特許をめぐってテキサスの会社と闘い、裁判に勝ったところでした。インドには彼女たちの努力もあって米の在来種が2千種くらい残っているそうです。その種が多国籍企業の管理下に置かれることになったら、すごく怖くないですかって言われました。まったく同感です。
 それから、「安値戦争」とか「価格破壊」とかいう暴力的な言葉には、私は大反対です。ものづくりをする人に死ねということですよ。「安値は愛だ」ってキャッチなんか、ケッて感じですね。今はおそらく産業革命以来の価値の転換期なんです。産業革命のスタイルは、工業製品にはおおいに利点もあったかもしれない。しかしそれを食べものにまで応用し、おかしなところにいってしまった。何もかも昔に戻せという気はありませんが、人間を取り残して行き過ぎています。でも転換期はチャンスでもあります。農業をやりたい若い人が増えてるでしょ。直感的に何が起っているのか分かっているのだと思います。
 大切なのは、食べものを通じて関係のあり方が変わるということです。イタリアではスローフード運動を母体に、「スローシティ」というネットワークが生まれました。人間サイズの、人間らしい時間の残る、商店街が元気で地産地消の個人店がたくさんあり、町にはベンチがあふれ、ほっと休める場所がある。そういう町づくりをしている人たちがいます。
 日本にもいい所がたくさんあるのに、希望のない話ばかり飛び交っています。自給率が40%しかないって小学校のテストにさえ出てくるんです。けれどもある地域に限って、本当に生産地と良い関係を作れば自給率90%なんてすぐいけるでしょ。悪いけれども国全体のことを心配する必要はないような気がしています。小さい単位で考えればいいんです。まずは自分の家、あるいは今日のようなこういう関係。こういう関係の中で、あるものをつないでいけば、不安や恐怖心を煽るようなメディアや物売りには振り回されないですよ。
 今は大きな転換期です。そう考えると、毎日の食卓がスリリングですよね。何を買うか、どう調理するか、誰と食べるかっていうことが世界を変えるんだと思います。


『スローな未来へ』
小学館、2009年12月刊 B6判、1,680円(税込)
島村さんの近著です。本文に登場する「まごの店」や「スローシティ」に興味を持たれた方はご一読を。