ひこばえ通信
2010年3月号(第284号)


やさい村 河合左千夫
第9回:UMAMI(うま味)が国際語になりました

 この前『めざせ! 半歩先』の渡辺さんが「BENTO」のことを書いていましたが「UMAMI」も海外で通用するんだそうです。味の素の社長が言ってたことですから、少しは我田引水があるかも知れませんが、昨今の日本食ブームを考えるとウソではないでしょう。人間の舌には未蕾(みらい)という、甘味や塩味、酸味などを感じる細胞がありますが、うま味に反応するレセプターを発見したという記事もありました。外国の学者だそうです。
 うま味というのは、いわばおダシの味ですから、日本人にとってはごく身近なものでした。昆布、かつお、じゃこ、干しいたけのもどし汁など様々なダシがあります。百年前に東大の鈴木博士(栄養学)が昆布ダシのうま味成分がグルタミン酸であることを特定しました。
 グルタミン酸というのは、たんぱく質の材料となるアミノ酸の一種で、20種類(うち9種類が必須)あるアミノ酸の中では一番多く使われているそうです。たんぱく質は実に種類が多いのですが、あるものは体になり、あるものは消化酵素やホルモンになり、あるものは細胞内でたんぱく質を作ったり、運んだりする手助けをしたりと、動物にとっても植物にとっても、生きる上でなくてはならない物質です。グルタミン酸や、その他のアミノ酸にうま味を感じるのは、たんぱく質の存在をかぎとってのことだと思います。
 一方、欧米人がうま味を意識してこなかったのは肉食だからだと思います。肉を調理すればアミノ酸はいやでもしみ出してきますから。昔から魚を食べてきた私たち日本人も、煮魚の時にダシ汁は使いません。沸騰したお湯にしょう油と砂糖で味付けして、サバやイワシ、カレイを放り込むだけです。子どもの時に、魚を食べた後で、煮汁をごはんにかけて食べるのが本当に好きでした。お鍋のあとに雑炊を食べるのはこの類です。カニやフグのダシは最高級の味です。これらは動物性たんぱく質からしみ出したアミノ酸です。
 動物性だけではありません。植物の昆布にもしいたけにもアミノ酸が多く含まれていて、おダシに使います。また、意外なところではもやしはアミノ酸(グルタミン酸)が多くて、味の素を多用する王将の調理人も、もやし炒めにはさすがに使いません。中華料理にはだいたい肉が入っていて、そこからうま味が出るのですから、味の素は必要ないんですけどね。
 トマトも多いそうで、こちらはイタリアの主婦が上手に使っています。もっと意外なところでは抹茶などの高級茶。出て来たばかりの新芽は生命の源となるアミノ酸をたっぷり含んでいます。いいお茶は渋味に加えてうま味があります。また、しょう油とみそには大豆たんぱくが分解されたアミノ酸が含まれています。おダシがしっかり効いてないと、しょう油やみそを入れ過ぎるのは、うま味を求めるからでしょう。
 おダシは野菜をよりおいしく食べるための日本人の知恵です。地球的規模で見ても日本は特に野菜に恵まれた所です。そしてもうひとつ忘れてはならないのが、身近においしくてきれいな水が豊富にあることです。
 動物性にしろ、植物性にしろ、食べものの70%近くが水でできています。食料を輸入することはいわば水を輸入することです。水の豊富な国が、水の少ない国から水を奪っているのですから、そのうちバチがあたると思います。