ルカニ村コーヒースタディツアーに参加して(下)
福井 浩(ひこばえ)
回復していないコーヒー生産とフェアトレードだけでは解決できないこと
前号で記したようなフェアトレードの成果にもかかわらず、コーヒーの生産は思うように回復していないのが実情です。これはルカニ村に限ったことではなく、タンザニア全体でもコーヒーの増産に力を入れているようですが、その生産量は2000年前後の「コーヒー危機」からまだ十分には回復していません。
要因はいくつかありますが、1つは、コーヒーの木は植え直しても収穫できるようになるまでに少なくとも3〜4年かかるということがあります。農業の破壊は容易ですが、その回復には大変な労力と時間がかかるという実例を、ここでも見ることができます。
もう1つ、フェアトレードだけでは解決できない大きな問題があります。数年前の原油価格の高騰とその後の「バイオエタノールブーム」でタンザニアでもトウモロコシ価格が高騰しています。そこに昨年から今年にかけてタンザニアでは干ばつが発生して、トウモロコシが不作です。トウモロコシは、タンザニア農民にとっては換金作物であると同時に主食として自給作物でもあります。タンザニアの農家は、現金収入と自給という2つの必要に迫られてコーヒーからトウモロコシへ作付け転換しているようです。
しかしこのコーヒーからトウモロコシへの作付け転換は、アグリフォレストの破壊という別の問題も引き起こしています。トウモロコシは単年毎に収穫し、かつ直射日光を要求するため、従来の日陰樹〜果樹〜バナナ〜コーヒー〜豆・イモ類というアフリカの風土に根ざした多層的な畑地利用(=アグリフォレスト)に馴染まないのです。その結果、日陰樹や果樹・バナナの伐採→畑地の土壌流出→地力の低下・乾燥化の一層の進行、という新たな問題が発生しているように感じました。こうした状況をフェアトレードだけで変えることは不可能で、なかなか難しい問題です。
「豊かさ」「貧しさ」をはかるモノサシって何だろう
今回のスタディツアーでもう一つ強く感じたことは、「豊かさ」「貧しさ」のモノサシは何か、ということです。ルカニ村の人々の基本的な生活は、換金作物としてコーヒー生産、自給作物として(もちろん余剰は市場で売る)バナナ、トウモロコシ、豆、芋などを栽培し、牛と鶏を飼ってミルクと卵を得るというスタイルだそうです。これを金銭的なレベルで計算すると、村人の生活水準は「1人1日1$前後ではないか」(辻村英之氏)です。しかし、「豊かさ」「貧しさ」は果たしてお金で換算されるものなのでしょうか?
本当は僕自身、「豊かさ」をお金の単位で計るなんて間違っていると考えているつもりでしたが、ところが、実際につい口に出てきたのが「ここの人たちの生活水準ってどれくらいなんだろうか?」ということでした。つまり、お金以外に「豊かさ」や「生活水準」のモノサシを持っていないことに改めて気づかされました。
フェアトレードが、モノのやりとりにとどまらず、人と人との交流をめざすものであるなら、このモノサシを自分自身で考え直すきっかけにもなる筈です。その意味でもフェアトレードは一方通行ではなく、相互にやりとりする交流の場なのです。 |