ひこばえ通信
2009年11月号(第280号)


第5回ちょっと待って新型インフルエンザ・ワクチン

 新型インフルエンザが流行っています。配達に行くと、学級閉鎖や学年閉鎖で子どもたちが家にいるのに出くわします。そんな中、10月19日から新型インフルエンザ・ワクチンの接種が始まりました。まずは医師や看護士などの医療従事者からです。厚生労働省は7千万人分も用意して、妊娠している人や幼児にまで予定しているようです。ただし、あくまでも希望者であって義務ではありません。接種前にまずよく考えてください。
 10月11日付朝日新聞に母里啓子(もりひろこ)さんの『ワクチン接種は慎重期して』と題する投稿が載りました。母里さんはウイルス学やワクチン研究の専門家で、同時に国立公衆衛生院や横浜市の保健所など、感染症の第一線で活躍されてきた方です。一昨年の12月に双葉社から『インフルエンザ・ワクチンは打たないで』という本を刊行されています。
 その投稿から母里さんの意見を紹介します。「インフルエンザ・ウイルスはのどや鼻の粘膜に付き、そこで増殖する。一方、ワクチンは注射によって、血液中にウイルスの抗体を作る。のどや鼻の粘膜表面に抗体ができるわけではないので、感染防止効果はない」と断言しています。予防接種というぐらいですから、誰もが「予防」を期待して受けると思うのですが、それがダメだというのですから驚きです。
 さらにインフルエンザ・ワクチンは非常に不完全なものです。ウイルスをニワトリの有精卵の中で培養して作るのですが、そのうちHAタンパクという一部分だけをとりだして作ります。だから血液中にできる抗体もHAタンパクに対するものだけです。何故か。ウイルスをそのままワクチンにするのが恐いからです。どんどん変異しますから、新型のワクチンのつもりが、新々型ウイルスをまきちらすことになりかねないからです。
 もうひとつ「重症化を防ぐかどうかについても、大規模な疫学調査はこれまで行われていない。グループ内で接種者と非接種者の重症度を比べた論文は複数あるが、結論はまちまちだ」。予防がダメでもせめてワクチンで軽くすんでくれたらと思うのが人情でしょうが、これもダメ。そして重症化ということで注意すべき「小児の脳症も高齢者の肺炎も、インフルエンザで体力が落ちたところに、解熱剤の使用や食物の誤嚥(気管に食べものが入ること)、細菌感染などという別の要因が加わって起こるもので、ウイルスが脳や肺で増殖して起こるのではない」。つまり、インフルエンザ発症後のケアの問題です。
 母里さんのこの意見に対し1週間後の10月17日に工藤政信(大分県豊後大野市立公立おがた総合病院医師)さんが反論していますので、こちらも紹介しておきます。「予防効果がないと断定できない」「重症化予防については、効果があるという意見が主流だ」と述べていますが、母里さんが指摘するインフルエンザ・ワクチンそのものの欠陥に対しては何ら反証していません。そして「ワクチンの接種を望まないという選択肢が残されている以上、予防を望む人々の判断を誤らせてはいけない」と結んでいます。誰もが予防を望んでワクチンを受けるのに、判断を誤らせているのは誰なんでしょうか。
 最後にぼくからも誤解を正すために3点あげておきます。
(1)「感染」イコール「発症」ではありません。例えば「学級閉鎖」になったけどウチの子は大丈夫だった」という場合には感染したけれど発症しなかったと考えてください。しかもその場合にはすでに本物の抗体ができていますから、ワクチンの必要もありません。
(2)「抗体」がなくても免疫は働きます。抗体は免疫機構の記憶のようなもので、あれば効率がいいというだけで、初ものに対しても果敢に闘い撃退してくれます。その過程で抗体ができます。感染しても発症しないのはそのためです。
(3)「発熱」を恐がる必要はありません。体がウイルスに負けて発熱するのではなく、わざと体温をあげて免疫力を高めているのです。しかもウイルスは熱に弱いのです(40度以上の発熱は自身の脳に影響しますが、それ以下の時は恐れることはありません)。
 免疫力を高めることが、最大の予防であり、重症化を防ぎます。そのためには(1)規則正しい食事、(2)バランスのよい食事、(3)十分な睡眠、(4)ストレスの解消です。