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2009年9月号(第278号)

分散型・小規模再生可能エネルギーへの転換を
新しい豊かさへの模索
農の持つ循環の価値へ
くらしからの政治
野良仕事のひとりごと
青森から 生産者自己紹介
ぐるーぷ自己紹介
学校給食を考える豊中市民の会 もぐもぐクラブ
会員のひとりごと/旬の食材 食べ方と保存方法
おたより掲示板
熊本産地交流(肥後れんこんの里・松村さんグループ)に参加して
うまい話まずい話
共済だより 医療福祉の現場から(4)
わが家の朝ごはん
めざせ!半歩先 〜命つむぐために〜
ちゃぶ台ラプソディー、編集後記



分散型・小規模再生可能エネルギーへの転換を
新しい豊かさへの模索
諸富 徹(京都大学)

 6月に諸富徹さんをお招きして「エネルギー・環境問題の現状と未来」と題する講演会を開きました。お話の中で特に参加者の関心が集まったのが「地域分散型エネルギー=エネルギーの地産地消」への転換についてでした(参加者の感想は先月号に掲載)。その概要を読者のみなさんにもお伝えしたいと思い、この論点を中心に新たに書き起こしをお願いしました。エコを謳う商品が大量に生産され、消費される現在、エネルギー問題も経済成長の材料にされています。しかし、経済成長が、すでに自然と人間の有限性に直面していることは明らかだと思われます。物質的成長への強迫観念を捨て、価値観を転換し、新しい豊かさを模索するための提案としてお読みいただけたらと思います。(編集部・下村)


 21世紀の社会にとっての最大の挑戦が「低炭素社会」の実現であることは、もはや多言を要しない。そのためには、2050年までに全世界で温室効果ガスの排出を半減しなければ、大きな気候変動が引き起こされる危険性が高まっているという点について、ほぼ国際合意が形成されつつある。このような劇的な排出削減は大変困難な道だが、社会、産業、社会インフラの構造変化を通じて、環境問題を解決しながら、新しい産業と雇用を作り出す社会システムを構築していかねばならない。

▲日本は2004年頃には世界の約半分の太陽電池を生産していた。現在シェアは20%以下、国別では中国、ドイツに続く3位に後退。シェアの低下自体を問題にしたいわけではない。電力政策転換における後退を象徴しているように思われるのである。

エネルギーの地産地消

 世界同時不況と気候変動問題に対する対応として、アメリカのオバマ政権は「グリーン・ニューディール」を打ち出した。これが狙いとしているのは、端的に言って「産業構造の転換」と「社会インフラの造り替え」である。ここでいう社会インフラとは、エネルギー・インフラと交通インフラである。
 エネルギー・インフラは、現在の「中央集権・一方向指令型系統」から「分散型・双方向ネットワーク型系統」へと大きな変化を遂げるだろう。現在、電力は地方に巨大な火力・原子力発電所を建設し、そこで発電した電力を、大規模送電線で大きな送電ロスを伴いながら大都市に送り込む方式で供給されている。しかし、将来的には電力消費地の近くで風力、太陽光・熱、バイオマス、地熱、小水力などの小規模再生可能エネルギーをネットワーク型系統(スマートグリッド)でつなぎ、IT技術で電力需要を制御しつつ、相互に電力を融通しながら利用するようになると考えられる。まさに、「エネルギーの地産地消」である。

大量消費社会の見直しを

 とはいえ、温暖化対策を進めることが、電気自動車をはじめとしてさらに電力需要を増加させ、原子力発電を増やすという方向につながってしまっては本末転倒である。原発を増やさず、なおかつ温室効果ガスの排出を削減しようとすれば、(1)まずは、エネルギーの大量消費社会を見直すこと、(2)それでもなお必要な電力は、電力消費地の近くで発電される、地域分散型の再生可能エネルギーで賄う、という方向に進んでいく必要がある。参考になるのが、ドイツ・フライブルク市の試みである。
 かつてフライブルク市では、70年代に近郊のヴィールで持ち上がった原子力発電所の建設計画に対して、広範な反対運動が巻き起こり、地元のワイン農家から知識人に至るまで9万6千人もの市民が、活発な抗議行動を繰り広げて原発の建設計画を撤回させた。しかし、このことは逆に、エネルギーの供給のあり方は本来どうあるべきかを自分で考えねばならないという問題意識を市民の間に生んだ。
 やがてフライブルク市議会は、全会一致で中期的に原子力発電に対する依存度をゼロに引き下げていくことを決定、将来へ向けた市独自のエネルギー供給構想を議決した。それは、(1)省エネルギー、(2)再生可能エネルギーの開発促進、(3)エネルギー効率性の向上という3つの柱に基づいて実施していくことである。市は、地域電力公社と協力して、家庭に自発的に一定の追加料金を負担してもらって基金を創設し、再生可能エネルギーで発電する電力供給事業者から電力を購入したり、再生可能エネルギー普及促進政策の財源としたりした結果、99年には原発への依存度をかつての約60%から約30%にまで低下させることに成功した。
 実は、これは電力自由化がドイツでは行われていて、一般家庭に、誰がどのような電源で発電した電力なのかを知った上で、購入先を選択できる権利が付与されているからこそ可能なのである。日本とはこの点、大きな違いがある。ドイツでは、費用は高くつくが、再生可能エネルギーを選択したいと思えば可能である。しかし、日本ではそのような選択はできない。このことに示されているように、本当に再生可能エネルギーを普及させたいと思えば、日本の電力政策のあり方を考えなければいけないのである。とりわけ、「市民の電源を選ぶ権利」のような考え方が重要になると思う。
 日本のように一定の所得水準に達した先進国では、これ以上物質的な豊かさが増加するよりも、快適さ、安全、環境のよさ、アメニティーのよさ、地域社会に助け合ったり連帯する力が存在すること等、お金では買えない「非物質的な価値」を求める傾向が強くなっている。そうすると、必ずしも大量のエネルギー消費社会が豊かな社会とはみなされなくなっていき、新しい豊かさの模索が始まると思う。その方向が、ちょうど低炭素社会がめざす方向性と重なり合ってくるのでは、と筆者は考えている。

『環境』
(シリーズ・思考のフロンティア)
諸富 徹 著
岩波書店 2003年10月発行
B6・130P・1,365円(税込)