ひこばえ通信
2009年5月号(第274号)

学校給食の現状と課題
奥野和夫(淀川産直)

 全国の小・中学校で実施されている「学校給食」。地産地消の観点から地元でとれたお米や野菜を使用したりするなど、地域の実情に応じて創意工夫されながら実施されているところも多いようです。

「食育」の強調 他方で進む合理化

 そんな中、04年には栄養教諭制度が導入され、また05年の食育基本法の成立などを受けて、今年4月には改定学校給食法―54年に学校給食法が成立して以来はじめての全面的改定―が施行されました。このように学校給食をめぐる情勢も大きく変化する中で、いわゆる「食育」という観点から、ますます学校給食のあり方をめぐる議論が大切にされてきています。
 しかしその一方で、85年に旧文部省が「学校給食業務の運営の合理化」の通達を出してからは、地元自治体の財政悪化などを理由に給食調理業務の民間委託化や調理員のパート化、単独調理方式からのセンター化、粗悪な原材料や危険とされている食品添加物などが大量に混入されている加工食品を多用するなど、目に見える形での様々な合理化が推し進められているのが現状のようです。学校給食の位置づけをそれぞれの自治体がどのあたりに持ってこようとするのかが問われているように思います。

食生活を激変させた戦後の学校給食

 そもそも学校給食は1889年、山形県鶴岡町にある小学校で地元の僧侶らが貧困対策として食事を無償提供していたのが始まりとされています。それから第二次世界大戦後の食糧難の中で全国へと普及していくことになったのですが、当初はアメリカ産輸入小麦と脱脂粉乳の援助によって賄われていました。その後、高度経済成長とともに日本型食生活の代表だった主食のご飯から欧米型のパンへと食生活が徐々にシフトしていくことになったのです。
 私たち日本人は長きにわたって、穀類や芋類を主食として、季節の野菜や豆類、海藻類、魚介類を中心とした食生活を営んできました。そういった食生活にはそれぞれの地域での風土があり、季節がありました。それが今となってはどうなのでしょうか。米の消費量は激減し、それに変わって輸入小麦粉から作られるパン、スパゲティ、ラーメンやバター、マーガリンなどの油脂類、そして牛乳・乳製品、食肉加工などの畜産品などの消費量が劇的に増えました。

▲「2009学校給食全国集会」が開催された。
3/20、社会文化会館(東京都千代田区)
 戦後50年という短期間でこれほど食生活が激変した国は世界中を探してもないだろうと言われています。この劇的な食生活の変化は食料自給率の低下や「メタボ」という言葉に象徴される生活習慣病の増加など、ありとあらゆるところで影響を与えています。
 このように学校給食での食生活が、その後の私たちの食習慣にまで多大な影響を与えている現状をもう少し真剣に考えていくべきでしょう。小さな頃から何を食べるかによって、社会は変わってきますし、自然環境も変わってくるでしょう。
 私たち日本人はこれまであまりにも命の源である「食」をないがしろにしすぎたのかも知れません。食の安全や信頼をゆるがす事件が多発する昨今、安心・安全な「食」の追求を念頭におくことはもちろん大切なのですが、その前に子どもたちが大人になったとき、地域の農業や食文化を継承し、豊かな食生活を過ごせることにつながるような「学校給食」のあり方を、もっと考えていかなければならない時期なのかもしれません。