ひこばえ通信
2008年2月号(第259号)

能勢農場―稲ワラ粗飼料化事業の取り組み
地域内自給で持続可能な畜産へ
寺本陽一郎(能勢農場代表)


▲稲ワラを食べる牛

 能勢農場が取り組んでいる稲ワラの粗飼料化事業は、単に粗飼料の確保を目的とするのではなく、昨年策定された「よつ葉がめざす畜産ビジョン―生きものをできるだけ自然に育てる―」の具体化に向けた第一歩として取り組んでいます。

粗飼料の約8割を地元産稲ワラで確保

 2005年からスタートした稲ワラの回収作業を始めた当初は、機械の使い方から回収方法まで試行錯誤の連続でした。やっとの思いで回収した数は約3千ロール、粗飼料の全頭自給に必要な目標数の半分にも満たない数量で、回収方法も一部機械を使用するもののほとんど「人海戦術」のようなやり方で回収しています。それでも機械の増設や回収方法を見直しながら今年はなんとか約6千ロールを回収、粗飼料の約8割を地元産の稲ワラで確保することができるようになりました。
 残りの2割は仔牛の育成期に必要な牧草(青草)なのですが、今年からその牧草の自主生産に取り組んでいます。品種はイタリアンライグラスで冬の間、田んぼを休ませる期間(10月〜3月)を利用して栽培しています(水田裏作)。作付面積は約6反と仔牛の育成期の粗飼料の確保としては数量的にはまだ不足していますが、3年後を目処に全肥育期の粗飼料の100%自給を実現したいと考えています。
 また、身近に手に入る飼料だけで肥育する試みも2005年から始めています。地元産の稲ワラ、よつ葉の豆腐を生産している別院食品から出るオカラに国産の乾燥オカラと会の砂糖の残渣である糖蜜を混ぜた言わば顔の見える関係から出た飼料で肥育しています。

持続不可能に直面輸入飼料依存の畜産

 能勢農場がこうした取り組みを試みる背景には、今の日本の畜産のあり方に疑問を感じているということがあります。戦後、日本はアメリカの余剰穀物を大量に輸入し、家畜の飼料として消費するという流れを国策として推し進め、飼料のほとんどを輸入に依存した結果、小規模の畜産農家は淘汰され経済効率優先の大規模化、工業化された畜産だけが生き残る傾向で、昨今の穀物価格の高騰が、それにさらに追い討ちをかけています。

▲稲ワラを回収する寺本さん

 また「健康に育てた牛」と称してサシの入った「霜降りの肉」にするために牛に大量に穀物を与え、牛の体に過度の負担をかけ、薬剤の投与などに頼った不自然な肥育を問題だと感じています。こうした畜産の現状が今後も未来永劫続くでしょうか。もしアメリカからの穀物輸入がストップされたら、今の日本の畜産の姿は完全に崩れるに違いありません。
 私たちがめざす持続可能な畜産にとって、農業と一体となった地域内自給、地域内循環の構築がまず第一に取り組むべき課題だと考えています。「自分たちの食べものは、なるべく身近なものを活かして地元で作る」、こんな当たり前の考え方が今の日本の畜産には必要です。