私たちの活動も30年余りになります。時代状況も出発当時と比べ随分と変わりました。初めの時期は、水俣事件・食品禍・環境汚染等「高度成長期」の弊害が噴出し、「豊かさとは何?」という問いかけが多くの人々の間に沸き起こりました。経済的にちょっとマシになったからといって、ブルドーザーで人の心をなぎ倒し踏みにじって「発展する社会」はおかしい!という想いが出発点でした。以来、私たちなりの「社会を考える場」として、食の仕事に関ってきました。
当初のメンバーはいわゆる「団塊の世代」で、30年を省みて、マシな社会になったとはとても思えない今の状況です。どころか、ますます住みにくくなっているというのが実感です。このまま次の世代に押し付けていくのは情けないことで、少しでもよりよいものを繋いで行くために何をしたら良いのか、が今の私たち「団塊の世代」の大きな課題です。そんなことを思いながら、いくつかの点を整理してみました。
次の世代へ伝えたいいくつかのこと
(1)食の問題を社会全体のあり方との関連できちんと、歴史的な変遷も踏まえて、把握する必要があります。「市場経済」の世界的な展開を無批判的に受け入れ、前提とするのではなく、そうなってきた過程を省みる中で、失ってしまった大切にされなければならない事柄・価値を私たちなりに整理することから始めます。
(2)「生産と消費、都市と農村の対立」はますます深刻になっています。直接的な関係はほとんど失われ、その間を無味乾燥な中央の役所が取り仕切ることになります。その流れを変えるためには「生産と消費の結び目」としての「流通」の仕事のあり方を再度問い直す必要があります。お互いが見えなくなって、つなぐものは「商品・金銭関係のみ」、信頼の基礎は「証明書」「表示」というのではあまりにも貧しいと言わざるを得ません。
(3)30年余りの間に、食を取り巻く環境は随分と不自由な世界になっています。言葉一つ使うのも許可が要る時代。先進的な活動の中から生れた「有機」「無農薬」という言葉などその典型。そもそも、社会批判の思想としてあったもの。それが力を持つようになった途端「規制」の対象になり、同時に力=思想を失うことになり、そのような言葉だけでは食への想いは伝わらなくなっています。新しい言葉を生み出す必要があります。それは再び食の事業に活力、将来に向かっての能動的な活動を取り戻すことにつながるはずです。
(4)地域社会の崩壊、人間関係の希薄さが問題になっています。そのことと、一次生産の現場の崩壊とは強い相関関係があると考えます。あらゆる生産が単なる商品の関係に置き換えられ、自然と共にある生産とその生産を維持してきた地域の共同関係が損なわれてきました。元に戻ることはできないにしても、新しく作り直すことに貢献する仕事をしていく必要があります。
(5)食の安全性が大きな社会的な問題として認識された始まりを考えると、食の「工業化」に行き着きます。社会が「高度成長」していく過程と比例して問題の深刻さは増しています。輸入産物の増大と危険な食品の流入もその流れの中で起きているわけで、問題が発生するのは生産の動機の不純さに原因があります。食べるために作るのではなく、利益・金を得るために作る、という決定的な違いの中に不正発生の根拠があり、今は「不正」発生の条件を有り余るほど備えた社会なのであって、「規制」とのイタチごっこが今後も繰り返されます。そして、「公権力」はそれを利用して肥大化していく、というおかしな結果になっています。管理の強化は根本的な解決とは関係の無い話。むだに使われる税金がふえ、社会がますます壊れていくことにしかなりません。
(6)食の「餌化」が問題になっています。コンビニ食が全盛を迎え、食のあり方が大問題となり、「食育」という問題意識もうまれました。いかに社会が病んでいるかの証左ですが、この問題に正面から向き合う必要があります。かつてはよき食生活など、風習として、次世代に当たり前に継承されてきたことが、その継承を保証した社会・地域・家族の関係が失われているという問題に行き着きます。「親の背を見て子は育つ」といわれるわけで、知らず知らずの間に事態は進んできて、どうしようもない手本になってしまった自身の反省も込めて、作り直していく必要があります。

▲奈良にんじんクラブの収穫の日に(12/2)。「にんじんクラブ」はつくる人・運ぶ人・食べる人の役割分担を超えて、スタッフも会員もいっしょに自らの手で作物を作ってみようという趣旨で始められ、15年目を迎えます。こちらと、こちらのページに関連記事。
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問題解決の方向性と私たちの当面の課題
以上のような認識から、当面の課題をまとめると、
@)一次生産の現場に活力を取り戻すことが多くの問題を解決する方向につながると考えます。農の営みが作り出してきた金には換えられない大切な価値も見直されつつあります。
A)「生産と消費の結び目」としての私たちの役割をもっと意識して仕事をして行く必要があります。お互いの距離がますます遠くなり、見えなくなっているその距離を縮めること。生産・加工・流通・消費の有機的なネットワーク(お互いの現状への理解と信頼に基づいた)をもっと豊かにしていくための活動を作っていく。
B)食の問題を食材のことだけに限定するのではなく、食生活、生活そのもの、環境問題、地域社会の問題、政治の問題などあらゆる社会の中の出来事と深く関っていることを具体的な活動を通して考えていくこと。
C)そして、課題をよりよく克服していくために、様々な場で活動する人たちとの連携・共同をより切実に求めていく。
D)上記の課題にきちんと向き合っていく過程を通して、若い人たちに問題意識を継承していくのも重要な仕事と考えています。 |