ひこばえ通信
2007年5月号(第250号)

グローバル化と日本の食卓
〜世界の農村と子どもたち〜
松平尚也(アジア農民交流センター(AFEC)・百姓)

 グローバリゼーションと呼ばれる時代。遥か彼方の、一生出会うことのない人が作った野菜が日本の食卓に並ぶようになりました。日本は中でも世界の食料輸入の一割を独占(人口は2%)的に輸入していて、貧乏でお金がないけれど食べものを買わなければ生きていけない人々にとっては大迷惑な国になっています。
 それでいて健康ならまだしも、遠くから食べものを輸入することに関して頷けない事実が一杯あります。まず農薬や薬品の問題。生産地から離れていると、見た目がきれいでないと日本の商社は輸入してくれません。生産者は仕方がなく、農薬や化学肥料を使用します。これは消費者に取って危険であるだけでなく、農薬を散布する生産者への被害も出ていて、多数の人々が世界で命を落としている現状もあります。また遠くから輸入することが栄養分の低下、食べもののうまみの消失も意味します。メーカーは結局、味の素系のうまみ調味料や添加物を使用してしまうのです。

世界中から集められる
コンビニ弁当の食材

 食料自給率40%と言われますが、その実情はあまり知られていません。例えば塩。歴史的に塩作りは日本でも行われてきましたが、今ではメキシコや豪州から塩を輸入して、工業用も入れると自給率は14%と世界最低です。あと食卓に常備されている砂糖。これも豪州やタイから輸入されていて、自給率は3割しかありません。そうして遠くから輸入して作った食料品の代表の一つにあるのがコンビニ弁当です。
 コストを徹底的に削減して作られるコンビニ弁当には世界中から集められた、食料加工品が使用されています。遠くから来る食べものにはさきほど触れたようにいろんな意味でストレスがかかっています。こうした食べものを日常的に摂取することは人類未曾有の経験と言えるのでは、と思うのです。それも子どもがそういう弁当を食べてしまっている。子どもたちの体に異変が起こっている方が自然と言えるのです。

▲変わり行くタイの農村風景(撮影:松尾康範・AFEC)
 途上国の農民は儲かって、世界の農村が儲かっていればそれでもまだいいじゃないか、と言われるかもしれません。でも実際は利益率が一番大きいのは、中間に位置する日本の大手商社やスーパーでこれは日本の生産者も同じですが、世界の農民は儲からない構造になっているんです。
 輸入食品だけでなく加工品に使用されるうまみ調味料や砂糖など単一の糖分はある意味、中毒的な症状も起こりやすくて危険です。例えば袋菓子には、世界の一番安い塩と砂糖と油が使用されていると言えばわかりやすいでしょうか。砂糖の過剰摂取によって起こる低血糖症。都市部の環境や食品へのストレスが併さって起こるとも感じる様々なアレルギー。こうした新しい症状を病院で治療してもらうとなると多額の医療費を支払わなければいけないわけです。
 農民作家の山下惣一さんの受け売りですが、高慢ちきな医者にお金を払うより、近くの農民や百姓にお金を払っていい食べものを食べる方が、今後健康保険もどこまで持つかわからない状況の中で、よっぽどいいのではと思うわけです。それもよつ葉のようにスーパーの味がない野菜よりずっといい物を扱っている流通業者さんがまだまだいる。食と農業とみんなの未来を考えるためにこうした議論が食卓や生活の視点からもっと行われていく必要が今後求められていくのでしょう。