ひこばえ通信
2007年1月号(第246号)

めざせ! 半歩先〜命つむぐために〜
第4回:「いいお産」って?

渡辺美穂(フリーライター・西日本新聞社『食卓の向こう側』取材班)

 「いいお産とは、妊娠中も陣痛も分娩もスムーズにいくこと、自然分娩であること。そう理解していた私は、『いいお産をしなければ!』と、プレッシャーにさえ感じたこともありました」
 西日本新聞朝刊で12月に連載した「食卓の向こう側第9部」の記事に、読者の方から届いたメールの一部です。「いいお産」。よく耳にする言葉ですが、いったい、どんなお産のことなんでしょう?
 近年のお産は、「不安」になりやすい環境です。2時間待ちの5分診療で、知りたいことも聞けない。リスクの話ばかりする医師がいる。陣痛中でも助産師がころころ変わる病院もある……。
 その弊害でもあるのでしょうが、産む側はお産を「お任せ」し過ぎてきました。いくら医療技術が発達したといっても、産むのは妊婦さん。それなのに、「あの先生ならなんとかしてくれる」と、完全に身を預ける人が増えているのも事実です。
 こんな中、心豊かなお産を目指して、妊婦が備えた産む力、胎児が備えた生まれる力を最大限生かす「自然なお産」が注目され始めました。それをかなえる環境づくり、体づくりに向き合う助産師や産科医、妊婦さんが増えた一方、「医療介入しないお産がいいお産」と、プレッシャーを感じる人も出てきたのです。だけど、お産の形にこだわり過ぎ、「自分は『落第生』になるんじゃないか」と不安を抱えるようでは、心豊かになりづらい。本末転倒ですね。
 メールは、こう続きます。「私のお産は、長い長い陣痛で、吸引をするため助産院から設備の整った病院へ搬送される中での自然分娩でした。よくいわれる『いいお産』ではなかったかもしれません。でも、私はこの出産で多くの事を教えてもらいました。苦しい陣痛の中での、助産師さんや家族、主人の温かさ。割と思い通りになってきた私の人生において、そうはいかないこともあるということ。大変だったけど、今では胸を張っていいお産だったといえる自分がいます」
 いいお産とは、百人いれば百色。つまり、いいお産は形じゃない。「正解」もない。ましてや、他人に評価されるものでもない。「命つむぐ」という大仕事に自分で丁寧に向き合い、思い通りにならなくても、周囲の助けを借りながら最善策を選び、努力していく。そんな「姿勢」がお産を心豊かなものにするのではないでしょうか。それは、育児、家庭づくり、地域づくり、社会づくりとて同じこと。もし、自分のお産に納得できなかったなら、育児で、命の力に向き合えばいい。チャンスはある。できることから始める「半歩先」でいきましょう。