ひこばえ通信
2007年1月号(第246号)

野良仕事のひとりごと
昔に戻る?

赤石果樹出荷組合 平澤充人

 NHK長野放送の取材を受けた。地球温暖化で農業の現場はどうなっているか、というテーマだったので、りんごの色つきが悪くなった、果肉が柔らかくなった、病気や虫の活動期間が長くなって農薬散布が減らせない、りんごから別のものに転換もありうる、などを説明した。
 インタビューや撮影などで取材は3時間くらいかかった。放送されてみたら私の出番は1分そこそこ。番組そのものはうまく構成されていて非の打ちどころはないのだが、「オレ、あんなにいっぱいしゃべったのに」という、不純な自己顕示欲は抑えがたく、いささか残念。
 地球温暖化はどこまで進むのか、どこで止まるのか、誰もわからない。しかし、どうすれば止まるかはわかっている。温暖化の元凶は化石燃料の使いすぎである。だから今から50年くらい前の社会と暮らしに戻ればいいのである。
 高速道路も新幹線もなかった。海外旅行なんて夢のまた夢。1ドルは360円。一般家庭にテレビも電話もなかった。食事はご飯にみそ汁に漬物が中心、掃除はホウキ、洗濯はタライでごしごし、ご飯は釜で炊いた。電気炊飯器を考案した人が「キミは女房に寝ていて飯を炊かせる気か」と言われたという。そういう時代である。
 そのころの米の消費量は1人1年に150kg。今はその半分になった。昔ながらの消費量があれば、減反政策は必要なく、水を貯め、水を蒸発させる水田の機能が働いて、環境も安定するのではないか。
 しかしなあ、そうはいっても本当に50年前に戻れるものだろうか。東京や大阪に出るのに1日かかった昔、今は車で4時間。刺身や焼肉に慣れた我が身がみそ汁と漬物だけで満足するとは思えない。米作りも、田植え稲刈りの腰痛はがまんできても、田の草取りだけは絶対に、ぜったいに、ゼッタイにやりたくない。
 温暖化はもう止めなくてはいけない。本当に。しかし、利便性、豊かさ、軽減された農作業など、今の生活を失いたくないのも本音だ。
 理想と現実、矛盾と優柔不断などなどをない交ぜながら、また新しい年が始まって……。