2006年11月号(第244号)

「よつ葉がめざす畜産ビジョン」決まる
『予防接種へ行く前に』のご紹介
暮らしからの政治(29)
野良仕事のひとりごと  対策の対策
福岡から NON-GMOを求めカンガルー島へ
会員取材レポート ほのほ助産院
会員のひとりごと 身も心もあったまろう!
おたより掲示板
ミヤコのウェハース また会える日が来ますように
9/26〜28 よつ葉牛乳北海道産地交流会
こんなんしてます
共済だより よつ葉共済つながり
10/9 農こそハーモニー
アジア農民交流センター 山下さん・松尾さん講演会
連載 めざせ!半歩先 〜命つむぐために〜
あかるい食育Z(9)、編集後記



「よつ葉がめざす畜産ビジョン」決まる
地域とむすびついた畜産を
津田道夫(能勢農場)

 BSEの発生をうけて、日本でもさまざまな対策が講じられてきました。しかしそれらは、消費の回復にのみ目を向けた改革で、真の原因と言うべき経済効率至上主義の大規模畜産のあり方そのものを問い直すものではなかったように思われます。私たちは自前の農場を持ち、生産現場に直接携わり、日本の畜産の現状や問題点を熟知しているからこそ、根本的な解決の困難さもまた十分に承知しています。しかし、だからこそ私たち自身のビジョンを鮮明に掲げ、原則を見失うことなく、微力であっても畜産現場の変革へ取り組む姿勢が大切だと考え、「よつ葉がめざす畜産ビジョン」を策定しました。皆様のご意見をお持ちしています。(編集部)


 日本で初めてBSEの発症が確認されてから5年が経ちました。以来5年間で、日本の畜産がどのように変化したのか。少し俯瞰的に捉えて検証すべき時期に来ているように感じています。

政府・農水省に真相究明の姿勢なし



▲能勢農場では地域内自給をめざし、粗飼料全量の稲ワラ化に向け、地元能勢の稲ワラ回収の真っ最中です。

 まず、日本におけるBSE発症の真の原因追及は、ついになされませんでした。「輸入肉骨粉説」「代用ミルク説」といろいろ論議はあったのですが、本当に原因を究明しようという姿勢が、政府・農水省になかったというのが唯一明らかな真実のようです。なぜそうだったのかという理由は、いろいろ推測する以外に私たちの知る由もないのですが、農水省の一貫した姿勢が原因究明より、結果に対する対症療法に終始してきたという点は、この5年間をトータルに見て疑うべくもないのです。「何か農水省にとって都合の悪いことが、原因追及を徹底すればあったにちがいない」そう私には感じられます。

加速する大規模化 増幅する現場のゆがみ

 2番目に考えてみるべきことは、この5年間、畜産現場で進行した変革は、常に商品としての食肉をいかに消費者に再び受け入れてもらえるようにできるのかという一方通行の変革だったという点です。牛の個体識別耳標の義務化、食肉商品のトレーサビリティ表示の義務化、ト畜場でのBSE検査の全頭実施。これらの方策は、消費者の食肉商品に対する信頼回復にとって重要なものでした。ところがその結果、5年間で畜産の現場がどのように変化したのかと言えば「大規模化」の一言につきてしまうのです。
 BSE発生直後から始まる牛肉の消費量の低落で、それまで細々と続いてきた小規模畜産は経営的にたちゆかなくなって、全国で次々に牛舎が消えていきました。続く子牛価格の高騰は、さらに小さな畜産農家を直撃して、畜産の規模拡大は一層加速することになったのです。企業的な経営で肥育頭数を拡大させ、飼料等のコストを極限まで切りつめることが畜産農家につきつけられ、多くの農家は脱落を余儀なくされました。
 そして、こうした畜産現場の大規模化の流れは、BSEを自然の中に引き起こした根本的原因であるはずの、畜産の工業化、畜産の効率化、家畜の非自然化を一層加速させています。輸入飼料に完全に依存し、高タンパク、高カロリーの飼料を大量に与えることで、飼育期間の短縮化と増体をめざす畜産が、ますます広がっているのです。
 まさにBSEの発生によって広がった消費者の食肉への不安に対応して、商品として食肉を再生させるための対策が、結果としてBSEを引き起こした畜産現場のゆがみをさらに増幅させ続けていると言わざるを得ないでしょう。

よつ葉がめざす畜産ビジョン

1.地域の気候・風土・人々の生活とむすびついた畜産を常に求め、地域の農業と一体化した畜産をめざします。
2.飼料の地域内自給、糞尿の地域内還元をめざし、環境負荷の少ない畜産をめざします。
3.繁殖・哺育・肥育・屠畜・解体加工・パック詰めの全ての過程で個体識別が可能で、履歴が追跡可能となる畜産・食肉加工システムをめざします。
4.動物としての家畜に、できる限りストレスがかからない、自然な肥育環境づくりをめざします。

ビジョンにむかい畜産現場の変革へ

 よつ葉はこうした事態の流れの中で、もう一度、本来、私たちがめざすべき畜産のあり方を問い直す必要があることを痛感してきました。売るために「安全ですよ」と言うことだけですますことなく、よつ葉の畜産の現場を、どのような考え方で、どう変えていく必要があるのかを、現場で日々家畜と向き合っている人たちと一緒に考えて、可能なところから具体的に変革していかなければ、本質的な畜産のゆがみは何も変わらないと考えたからです。
 現在、よつ葉の畜産農場は、牛・豚・鶏を合わせて6か所あります。牛は瀬戸田農場、能勢農場。豚はふえろう村塾、奥口ピッグファーム。鶏は京都養鶏、小坂養鶏。この6か所の畜産の現場を担っている皆さんと、企画を担当するひこばえ、食肉加工を担当する能勢食肉センターに呼びかけて、関西よつ葉連絡会に畜産部会が新しく誕生したのが今年2月。以来その畜産部会を中心にして、よつ葉の畜産の将来目標を示す「畜産ビジョン」づくりが進められてきました。そして、今年7月の関西よつ葉連絡会代表者会議で「よつ葉の畜産ビジョン」が提案され、承認されたのです。
 現場の実態は、この畜産ビジョンから見れば、まだまだ不十分なところがばかりです。けれども、よつ葉の畜産現場から一歩でも二歩でも、このビジョンにむかって現場を変えていきたいと考えています。会員の皆さんのご意見・ご批判を強く望むものです。