■利益よりまず人を大切に
WTO反対集会の入り口のフェンスに、「People before profit(利益よりまず人を大切に)」とカナダのNGOの横断幕が掲げられていました。世の中のすべての「モノ」を自由に取引し利益を受けるのは、先進国の大企業や一部の人たちで、圧倒的多数の人たちはその犠牲になっています。WTOの言う、公平な貿易などできるわけがないのです。横断幕はそのことを言い表していました。そして会場には世界各国から1万人もの人たちが集まり、大小さまざまなフォーラムが連日開かれました。
■キーワードは「食料主権」
公平な貿易の枠組みを作ればどの国も豊かになる。そんな幻想を植え付けるために先進国はこぞって途上国に対して支援を打ち出しています。日本政府も「途上国支援パッケージ」とやらを示していました。100億ドルを支援しようということですが、内容は輸出できる作物を作るためのインフラ(基盤)整備に限るというものです。自国の食料も自給できていない状況を無視し、既存の農業を崩壊させ輸出作物(換金作物)を作らせ、そのお金で工業製品を買えといっているのです。そのうえ工事は日本企業が請け負い、資金は日本に還流するシステムです。地域の実情を無視したWTOの考え方に対して、自分たちの国の農業や食べ物、そして文化を守っていこうと「食料主権」という新しい言葉がキーワードになっています。
*食料は食べ物全般をさし、食糧は主食をさします。

▲カナダのNGOの横断幕と八木さん |
■日本の農家は孤立してしまいます
日本からもNGOや農民団体などから200名近く来ていましたが、存在感がありませんでした。なぜかというとその主張の大半が、日本の農業だけを考え世界の現状を見ていないからです。そのため「日本政府(農水省)は農産物輸出国に妥協して輸入自由化や関税引き下げに応じるな」という政府(農水省)の応援団になっているからです。閣僚会議最終日の閣僚宣言を受けての新聞などの論調も『農業、日本は「大勝利」』『コメ輸入拡大見送り』といつのまにか「大本営」発表の見出しになっています。
政府・財界は、貿易を自由化し工業製品などを輸出したいため、農業分野での妥協は仕方がないという考えです。中川農水大臣は、経済産業大臣から横滑りで、会議開催中には関税引き下げや輸入枠の拡大など譲歩案を出し国内外の様子を伺っていました。しかし世界の実情は違うのです。日本の農業を守るだけではダメで、世界の農民と連帯して「食料主権」を確立していかなければ、日本の農民は孤立してしまいます。
■たくさんの国々の農民と話ができました
連日いくつものフォーラムなどが開かれていましたが、共通語はどうしても英語にならざるをえず十分理解できずもやもやしていましたが、言葉の壁にぶつかったのは私だけではなく、各国の農民の方々も同じだったようです。通訳を二人お願いしなければなりませんが、さまざまな国の農民の方々と対話ができました。「大きな資本が入ってきて農地が収奪される」とか、「外国から安いコメや農産物が入ってきて生活ができない」とか、共通した話に集約されてしまいます。
いつも最後に、「日本の農業についてどんな印象をもっていますか」と質問するのですが、ほとんどの方がイメージできないと返答してきます。日本や能勢の実情を話すと、逆に質問攻めにあいました。しかしこのままでは農業が潰されてしまうという認識では共有できました。世界の農民が連帯して「食料主権」を勝ち取り、市場原理主義やグローバリゼーションに対抗する「もうひとつの世界」を築き上げねばならないと痛感しました。
■こんなところでも世界の実情が
私たちの宿泊先は、日本から予約できるホテルとしては一番安いほう(1泊4800円)で、部屋は日本のビジネスホテルと同じです。しかし400室ほどあるホテルですが、WTOの会議に出席するアフリカの国々の政府関係者が1/4ほどを占めていました。会議場までは地下鉄を2本乗り継いで行かなければならず、便利な場所とは言いがたいのですが、彼らにすればこのクラスのホテルしか予算的に許されないのでしょう。しかし朝の出発時などは、華やかな民族衣装に魅了されました。
|