2005年11月号(第232号)

安全より政治日程、結論ありきの米国産牛肉輸入再開
果樹作りから見た最近の異変 平澤充人
暮らしからの政治(17)
子どもや高齢者の命を脅かす予防接種行政!
野良仕事のひとりごと デンマークの春菊
京都から  販売から製造へ―アロンとかぼちゃ
会員取材レポート 京都養鶏生産組合
会員のひとりごと のどかな写生の一日
おたより掲示板 置賜−大阪−オーストラリア
ニュースあれこれ 遺伝子組み換え「不使用」表示で議論百出
おしゃぶりが危ない
釜ヶ崎フィールドワークに参加して
共済だより 霜月日記(3)
9/4 茨木にんじんクラブ始動!
新米百姓奮闘記 最終回
リレー連載  Non! GMO・産地からの声  第2回
さまざまな領域で企業が暴走
私的快適?日記(9)、編集後記



安全より政治日程、結論ありきの米国産牛肉輸入再開
私たち自身の手で別の仕組みを
津田道夫(能勢農場)

 食品安全委員会のプリオン専門調査会は10月31日、米国でのBSEの確認以降、輸入が止まっている米国産とカナダ産の牛肉の安全性について、生後20カ月以下の牛に限り危険部位を除去するなどの条件を守れば、日本の牛肉と比べて「リスクの差は非常に小さい」とする答申原案をまとめました。12月上旬には政府に答申、これを受けて政府は今年中にも輸入再開に踏み切る見通しとなりました。安全性が国産と同等かどうかについては「科学的に評価することは困難」としながらのこの結論は、とうてい納得できるものではありません。同委員会の存在意義を自ら否定するこの決定を受けて、私たちは何を学び、どう行動すべきでしょうか。畜産の現場から津田さんに提起していただきました。(編集部)



▲能勢農場では、町内全域の農家に協力を呼びかけ、国産稲ワラの粗飼料化事業を進めています。
 2003年12月、アメリカでBSEの発症が確認され、輸入が禁止されてきたアメリカ産牛肉の輸入再開が目前に近づいてきています。(1)生後20ヶ月以下の牛に限る、(2)特定危険部位(脳、脊髄、眼、小腸の一部等)の完全除去、の2点が遵守されれば、アメリカ産牛肉によるBSEの感染リスクは極めて低いという食品安全委員会の答申が、12月上旬にも出される見通しになっているからです。

総選挙後、大統領来日前の
「科学的」決定

 しかし、畜産、食肉の生産現場で働いている私たちから見れば、事態の流れは「食の安全」という本題からはまったくかけ離れた、政治の流れで動かされているとしか見えません。9月11日の総選挙における自・公の圧勝、小泉政権の絶対多数獲得が、世論の心配、反対を押さえ込んでの輸入再開への流れをつくり出したことは間違いありません。11月に予定されているブッシュ米大統領の訪日前に、日米間の懸案処理にむけた妥協が、大切な私たちの生活や安全にかかわる分野で「政治的」に進められているのです。小泉首相の「科学的見地に基づいて」という白々しい台詞は、輸入再開の条件とタイミングを考えれば、国民をまったくバカにしているとしか言いようのないものです。
 アメリカの畜産・食肉加工業界が、数社による独占的大規模経営の会社によって牛耳られていることは御存知でしょう。1日何千頭もの牛をト殺し、解体、加工する食肉処理工場では、低賃金で雇用された移民系の労働者が現場を支えています。要求されるのは効率。食肉用の牛の肥育も、大規模化が進みすぎて牛の個体識別なんて困難なことは、現場を知る人なら、誰しもが十分知っているのです。だから、日本の食品安全委員会が、これだけは守られるべき条件として上げた、(1)20ヶ月齢以下の牛、(2)特定危険部位の完全除去、など保証されるはずがないものです。そもそも、アメリカではBSE検査すら業界に丸投げされ、見逃しや、意図的な見過ごしが頻発しているのです。現場を管理、監督するはずの米国農務省が、日本の農水省ですら足元にも及ばないほど、業界べったりの御役所だというのも、よく知られている事実です。

大量生産システム 食へのあてはめは無理

 にもかかわらず、早晩、アメリカ産牛肉の輸入は再開されてしまうでしょう。しかし、私はあきらめたり、投げやりになってしまうことはないと考えています。大切なことは、こうした政府のやり方、BSEから見えてきた世界の畜産・食肉業界の実態から何を学んで、どう私たちが行動するのかということだと思うからです。
 本当の意味で食の安全を政府や法律が守ってくれると考えることは楽観的にすぎるのです。持続的に食の安全を確保しようとまじめに考え始めると、今、世界を覆いつくしている大量生産・大量消費の経済システムでは困難だと、すぐに気付くはずです。工場で、同じ部品を大量に生産する発想を、自然が育て、自然から生み出される食べ物にあてはめること自体に、最初から無理があったのではないでしょうか。日本でのBSE発生、アメリカでの食肉加工業の実態は、それを私たちに教えてくれたと私は考えています。小泉首相の国民をバカにした発言も、自動車を大量に北米でつくって売りたい国の方針からすれば、当然なのだと言えるでしょう。

食べ物づくりは私たち自身の協働で

 だから、食べ物の安全性を考えることは、今の世の中の仕組みを考えることに等しいのです。そして、おかしいと感じる仕組みとは違う別の仕組みを、私たちが身近なところから協力し、協働してつくっていくべきだと思うのです。政府や法律に頼る前に、まず、私たち自身が日々の食べ物を見直し、選び直し、食べ物を生み育てる現場に目を向けて、足を運び、一緒に食べ物をつくっていくべき時代になってしまったのです。
 10月25日、京都府亀岡市の食肉センターでト殺された牛は、能勢農場から運んだ牛2頭だけでした。午前9時から始まった解体作業は午前11時には完了。保健所の職員4人、ト場の職員3人、それに私の8人がかりで、2頭の牛をト殺、解体し、枝肉にまで処理したのです。もちろんBSEの全頭検査、特定危険部位の除去は完璧に行われていました。ここでは自分たちが育てた牛の内臓を、自分の眼で確かめながら、作業を進めることができるのです。こうした私たちの現場と、アメリカの1日何千頭もの処理工場の現場と、危険リスクが同じだと、私には、どう考えても理解できないのです。