どうなる米国産牛肉の輸入再開
――早くても来春以降の解禁か?――
連絡会事務局長・中川健二
トレーサビリティ法施行 他方で全頭検査見直し

▲BSE全頭検査の継続を求める署名を
厚労省に提出する中川事務局長(右) |
12月1日から牛肉トレーサビリティ法が施行され、スーパーなどの小売店や、焼肉専門店などの流通段階においても個体識別番号の表示による生産情報の開示が義務付けられるようになりました。国内におけるBSE(狂牛病)の発生や、産地偽装などにより失われた「食の安全・安心」を取り戻すという食品行政における対応の一環でしょう。
ところが一方では、この間大きな問題となっていた「BSE全頭検査の見直し」が米国産牛肉の輸入再開の圧力に押されて行われ、生後20ヵ月以下の若い牛は検査の対象から外されるという、せっかく戻ってきた牛肉に対する安心がまたしても脅かされることになりました。
そこで今回は、昨年12月の米国におけるBSEの発生による同国産牛肉の輸入停止から輸入再開に向けた日米政府の協議や、それに合わせた国内BSE対策の緩和(全頭検査の廃止)をめぐる動きを振り返り、今後の行方を考えてみることにしました。

▲署名用紙 |
早期再開めざす日米政府 食品安全委は二転三転
2003年12月24日に米国ワシントン州で同国初のBSE感染牛が見つかりました。そこで日本政府は直ちに米国産牛肉の輸入を禁止して、それ以降米国からの牛肉輸入はほぼゼロとなっています。日米両政府は輸入停止直後の12月29日に初会合を開いて以来、専門家の会合を重ね(日米BSE協議)今夏までに輸入再開をすることになっていました。ところが再開の条件として全頭検査を求める日本政府に対して米政府は、「全頭検査は非科学的」と批判をし、逆に日本のBSE対策である全頭検査を見直すようにと身勝手な要求をして協議は難航しました。
一方では、この日米BSE協議の動きに合わせて食品安全委員会のプリオン専門調査会が、「国内のBSE対策の検証(全頭検査の見直し)」を4月22日にスタートさせました。そして7月16日には検証の最初の報告案が公表され、その後8月4日には東京で、8月24日には大阪でと全国各地で意見交換会なども行われました。
7月16日の最初の報告案では、検査には検出できない限界があるため、若い牛をBSE全頭検査の対象から除外しても人への感染の危険は高まらない。その月齢は「現在の知見では明らかではない」とされていました。ところがその後、議論は二転三転し、9月6日の調査会に出された案は「20ヵ月以下の感染牛を現在の検査法で発見するのは困難」と書かれ、最初の「明らかではない」との表現は消えていました。これに委員の中から異論が出て「検出できなかった」に修正することで合意されたのだが、その後9日に出された最終的な報告書案では「20ヵ月以下の感染牛を現在の検査法で発見するのは困難」という表現が復活するなど、事実上20ヵ月以下の検査の除外を容認する内容になりました。これが食品安全委員会の「中間取りまとめ」といわれるもので、これに沿って10月15日には農水・厚労省が全頭検査の見直し(緩和)を柱とする検査基準の改正案を食品安全委員会に諮問したのです。

▲大阪での意見交換会(8/24) |
この結果を受けて、10月23日に東京で行われた日米両政府の次官級協議で早期の輸入再開を目指すことで両者の意見が一致しました。日本側は全頭検査体制を見直し、生後20ヵ月以下であれば検査なしで輸入を認めることになります。ただ牛の月齢をどうやって確認するかの問題が残り、米国は色や硬さなどの肉質≠ノよる確認を求めていますが、日本は牛の生産記録に基づいた客観的な方法を求めています。この協議後の記者会見で目前(11月2日)に大統領選挙を控えた米国側代表のペン農務次官は「年内にも輸入再開?」とその成果を自国向けに宣伝したりもしましたが、実際にはそうはいきません。全頭検査のほかにまだ今後詰めなければならない点が残っていますので、米国産牛肉の輸入再開は来春以降になるでしょう。
また輸入再開のために国内検査基準の改正の諮問を受けた食品安全委員会は10月26日から審議に入ったのですが、答申を出す前に日米協議が並行して進み、見直しを急ぐ政府の姿勢に委員から批判が続出しました。このように食品安全委員会の答申が年内に出るかどうか微妙です。
輸入牛肉は全頭検査除外 国産は継続の二重基準
いずれにしても来春以降米国産牛肉が解禁されます。国内では政府・厚労省が経過措置として全頭検査を続ける自治体に費用を3年間全額補助することになりました。実質的には米国(外国)からの輸入牛肉に対しては全頭検査を除外し、国内の牛肉には継続するという二重基準になります。
これは、来春以降、店頭には検査を受けた国産牛と、検査を受けていない米国産牛が並ぶことになります。
検査を受けていない不安な牛肉を「食べたい」と思う人はいるでしょうか。
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