私たち吉田屋の起源は1883年、奈良県の吉野にある下市町に開いた小さな和菓子屋がスタートです。当時、下市は大峰山へ登る修験者のための宿場町でした。交通がまだ発達しておらず、下市口駅で降り立った修験者たちは、ここから約十里(40km)の道を大峰山まで歩いたと言われています。そして吉田屋は、その山上参りの修験者たちのために、土産物として葛や乾物、菓子等を製造し、宿場の旅籠(旅館)に売りにいったのがその始まりです。それから百有余年の間、和菓子の技術を生かし、奈良の特産物である吉野葛を使用した葛餅、葛菓子、葛せんべい、葛飴など、さまざまな葛菓子の製造に携わってきました。
吉野葛は、私たちの原点
吉野葛は料理の主役ではありませんが、おいしさを引き立ててくれる大切な存在であるように、私たちは素材の持ち味を引き出す菓子作りを大切に考えております。
かぜに用いられる漢方薬「葛根湯」の原料としても使われている葛。葛は、血行促進や発汗、解熱作用があることから、かぜや頭痛、肩こりに有効な生薬として古くから使われてきました。葛湯や葛もち、葛きりなどの材料としても知られています。
その葛粉は、葛というマメ科の植物の根から作られます。山中に自生している葛を見つけてその根を掘り出し、根の繊維を機械で潰してデンプン質の汁を搾り出します。その汁を、不純物を取り除くために、冷水を加えながら数回にわたり「寒晒し」という精製作業を繰り返し、最後は寒風で乾燥させて完成。ここまでざっと約2カ月という長い時間と、たいへんな手間ひまをかけて作られます。一方、現在吉野で葛を掘られている方は約10名ほど、さらに奈良県内で葛の製造をされているところは3軒しかないそうで、本物の吉野本葛は本当に希少になってしまいました。
葛の魅力
葛粉はどんな方にも召し上がっていただけますし、体のバランスを整え、中庸にしてくれるので、体の冷えている方、外食続きで胃腸に負担がかかっている方にもおすすめです。
私自身が出産を機に子どもたちのことを考える中で、昔から受け継がれてきた葛の持つ力強さ、おいしさ、優しさを改めて感じました。この葛の魅力を若い世代にもっと気軽に実感してほしいと、動物性のものや添加物は極力使用せず、地元農家さんや国産のフルーツや野菜など、できるだけシンプルな素材にこだわった、さまざまなフレーバーの葛湯や「体にやさしいほっとする葛菓子」を作り始めました。
一方、吉野葛と胡麻だけを使った「葛ごまどうふ」は、先代が何度も何度も試行錯誤し、炊きあげる際の温度や練り上げる回数など、こだわり抜いた逸品です。繊細で香ばしくなめらかな葛ごまどうふ本来の味わいをお楽しみください。
伝統を守りつつ、新しい商品作りにも積極的に取り組み、次の世代へつながるようにこれからも作り続けたいと思います。
(吉田屋 山本 桃子)
2018年『life』130号
吉野葛
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