ニシンが浜坂港に入りだしたのは、10年前くらいからです。それまでは年に数本をセリ場で見ることはありましたが、年々本数が増えてきました。漁場は大型船で5時間ほどかかるような沖合で遠めの海域です。山陰までニシンが来よるんは海水温の上昇で海流の変化も関係しているんかも知れません。漁は底引き網でホタルイカやハタハタ、松葉ガニを獲りに行って混じって入るくらいの量ですんで、一度に大量にはなりません。「今日はニシンが豊漁だねえ!」という日は年に3日くらいのもんです。
2月から漁が増えて、春が近づくにつれてグンと脂ののりが良くなります。脂がのる頃は餌の魚をたくさん食べる時期ですから腹の皮が薄くなってきて、身傷みも早いんですわ。ですけ、身扱いが肝心なんでもんで、セリ前の下見を十分にしてからセリ落とします。鮮度落ちも早く、扱いにくい魚ですけ、大手の加工業者は買いません。北陸や北海道が本場の魚ですから浜坂では名産の魚にはならんので、セリでも高値は付きません。これまでは漁師もよう獲ってこなんだけど、段々と他の魚が揚がらんようになってきて、船が時間をかけて沖合まで出ることが増えるにつれ、ニシンが市場に入る量も増えてき始めました。
10年前、試しに仕入れて調理場で包丁を入れると身が柔らかでクセがなく、脂の質も良く、なかなかええ魚でしたんで気に入りました。山陰では食べる馴染みが薄いですが、時々仕入れては「刺身用」にして出し始めたら、初めて食べるお客さんにも好評でしたで、少量でも水揚げがあると仕入れるようになりました。
中でも、古くから漁師を営む川越さんの「幸栄丸」が水揚げするニシンは、身扱いが確かで、なるべくセリ落としています。若い息子さんも船に乗り始め、魚扱いが上手くなってきたので、「これは買ってやらないけん」と思い、息子の代も応援しとります。
刺身用だけでは限られてしまいますけ、いくつか調理方法を試してみたら、柔らかい身質やニシン特有のクセというか風味に「西京みそ漬け」が合いました。焼き上がりの香ばしさも好評でした。一度にたくさんの水揚げはないので、サイズの大きいものを選んで、その都度、白味噌と「三河みりん」「蔵の素」で作る自家製の漬け味噌に少量ずつ漬け込んでいます。内臓の大きな魚ですけ、キレイに血を洗い落して、丁寧に下処理してから切り身にすることがおいしく仕上げる秘訣です。
(山米 山本 静夫)
2018年『life』150号
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