山形・温海町森林組合(山形鶴岡市)
焼き畑の技術を若手に継承し、未来に続く森づくりにつなげたい
山形の伝統野菜のひとつである、赤紫色の「温海(あつみ)かぶ」。私の暮らす鶴岡市には焼き畑の文化が残っており、本場ものは約400年前からの伝統的な焼き畑農法で栽培されている。ご縁があってこの秋、本場ものの「焼畑あつみかぶ」のPRに関わることとなった。私たちは「焼き畑」という文化を未来につないでいきたいと考えていたため、今回のご縁を本当にうれしく思っている。
焼き畑というと「環境破壊」をイメージする人も多いかもしれない。しかし、日本の焼き畑農業は、江戸時代から続いている循環型の自然農法だ。温海地区では8月のお盆を過ぎて晴天が3日続いた後、山の斜面に火を放ち、まだ土に熱が残っているうちに種をまく。
この作業には主に二つのメリットがある。一つは、山に火を入れることで地中の病害虫を熱消毒できること。もう一つは、杉を伐採した際に出た枝葉が灰になり、天然の肥料になること。このため農薬や化学肥料を使わずにかぶを栽培できるのだ。
また、古来、かぶは雪国の人々を飢饉(ききん)から救ってきたといわれる。毎年、米の出来、不出来が分かるお盆の頃に作付けし、降雪期を前に収穫できるためだ。温海地区は良質な杉の産地のため、江戸時代から杉の伐採地を利用してかぶの栽培を行ってきた。かぶの翌年は蕎麦や豆を育て、その次の年に若い杉を植林する。次に同じ場所で焼き畑をするのは、杉が樹齢50年に育った時。50年の間に養われた地力によって、他にはない滋味あふれるかぶが育つ。特産品として江戸幕府に献上した記録も残っている。
しかし、近年では林業が衰退し、焼き畑農業を行うための用地確保が難しくなっている。このため、多くの生産者が杉の植林をせずに雑木林を5年サイクルで回している。かぶの栽培に最適な土地だけを選んで使えるメリットはあるが、50年のダイナミズムが失われ、焼き畑文化に魅了された者としては、ショックだった。何とかできないものかと思っていたところ、温海地区の森林組合を挙げて温海かぶを栽培し、焼き畑の技術を若手に継承するとの連絡を受けた。その売り上げを元手に植林し、未来へ続く森づくりをしたいが、いい知恵はないか、との相談だった。このプロジェクトは応援しなければならないと強く感じた。
残暑厳しいお盆過ぎ、急斜面に火を放って行う焼き畑作業は非常にハードだ。せっかくまいた種が、台風による大雨で流されてしまうこともある。これから待ち受ける収穫作業では、数十キロのかぶを背負って山を下る。大変な重労働だ。しかし、焼き畑農法で育てた温海かぶは、皮が薄く、パリッとした歯ごたえがあり、風味もいい。森林組合としてのかぶ栽培は初の取り組みだが、組合員には温海かぶの生産を長年手がけているベテラン農家も多く、出来映えは上々だ。ぜひ一度ご賞味いただきたいと思う。
(山形食べる通信 編集長 松本典子)